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第8話(男side)

薄暗い店内とゆったりとした音楽。 1人で落ち着いていられるこの空間がとてもすきだ。 考え事をするのにも向いている。 ただ、今日はその状況が少し不利に動いているな、と感じていた。 数十分前に、キィ、と少し立て付けの悪い扉を開けて入ってきた男性に目を奪われた。 俺の対局側に、入店そうそう真っ直ぐに向かった彼の横顔が、憤りを感じているような、悔しそうな、悲しそうな表情をしていたから。 その顔が頭から離れず、アルコールを口に含ませながらもちらりとそちらをみてしまう。 しかし、角の奥の席はいっそう薄暗く、彼自身が俯いていることもあり、表情の変化を見受けられる様子はなく、今日話しかけるのは難しそうだな、とこっそり1人で溜息をついたところだった。 ダンッッとグラスとテーブルがぶつかるような音がして、弾かれたようにそちらを見つめる。 物静かな店内に音が思いのほか響いてしまったからであろう、ハッとしたように顔をあげた彼が少し困ったように視線をさまよわせ、此方をみつめる。 遠目からみても、白く透き通っているような肌。 瞬きをする度にばさりと音がしそうな長くて量も多いまつ毛。ぷるりとした唇。柔らかくふんわりとした印象を与える、ミルクティのような色の髪。 とても綺麗だ、と思った。 そして、直感であろうか、彼も、きっと自身と〝同類〟であると感じた。 そんな自分自身に少し驚き、目を見開いてしまう。 すると、音に驚いたと思ったのか、申し訳なさそうに眉を少しさげ、唇を軽く噛み、ぺこりと頭を下げてきた。 真面目だな、と考えつつも気にしなくていいという気持ちを込めて笑みを浮かべ、軽く手を振る。 すると、安心したように軽く笑みを浮かべもう一度頭を下げてきた。 そんな真面目なところも好印象だった。
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