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第9話(男side)

ちら、と彼のグラスをみると残りが半分程度になっていた。 昔アルバイトでバーテンダーをしていたこともあり、なにかカクテルを送ろうかと思い至った。 愛を伝えるものはいくつかあるが、彼がいま飲んでいるものはオレンジジュースで割ったものだったので、スクリュードライバーを注文した。 2つのグラスを手に立ち上がり、ゆっくりと近づいていく。 「隣、失礼していい?」 ぽやぽやと遠くを見つめていた瞳がゆったりと動き出したのを確認して、グラスをテーブルに置く。 ハッとしたように此方をみてきたので、よく人当たりがいいと言われる笑みを浮かべ、警戒されないよう気をつけつつ、静かに腰掛ける。 「スクリュードライバー、飲める?」 未だにぽやぁっとしているのをいいことに、大切そうに握りしめられている手からグラスを抜き取り、新しいグラスを手渡す。 顔を見つめられていることに気がついたので、にこりと微笑んでみると、悪戯がバレた子のようにあわあわと視線を泳がし始めた。 一一可愛いな。はやく自分のものにしたい。 そんな俺の気持ちに気づくことなく、ぱちぱちと瞬きしながら自身の手の中のグラスを見つめたあと、ふんわりとした笑みをこちらに向けてきた。 「ありがとう」 どきりとした。 カクテル言葉を知っているのだろうか。 そんな甘い期待を抱いたが、普通にこくこくとグラスを傾けた彼に多分それは無いな、と感じた。 「美味しい、」 「ほんと?良かった」 不意に口をついて出たような言葉に、そっと安堵の息をつく。 酒のせいで、潤んだ瞳と少し上気した頬がとても愛らしくて、そっと手を伸ばす。 しまった、と後悔したときには遅く、俺の手は彼の頬に触れていた。 しかし、きょとんとした表情でこちらをみつめていた彼は、拒絶することなく、ゆったりと目を細めて手に擦り寄ってきた。 気分が少し高揚し、口角が上がっていくのを感じる。 もっと彼に触れたい、と思う心のままに。 「カクテルの意味、知ってる?」
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