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第36話

風呂場に入り、鏡に映る自分を見つめる。 化粧して普段の自分とかなり印象の違う、つり目にやっていた俺の目元は、涙で滲み、真っ黒パンダになっていた。 ふと視線を落とすと、メイク落としが置かれている。これは、今日スーパーの帰りにコンビニに寄って買ったもので、晴さんの前の人をちらつかせるようなものではなかったけれど、前の人もこういうものをつかっていたのだろうか、などと考えてしまう。 そんな考えを振り払うように頭を振って、冷たいシャワーを浴びる。体温が奪われて、体が冷えていく感覚と共に、俺の恋愛の熱も流れてしまえばいいのに。そう思った。 *** 全て洗い終えて、湯船に肩まで浸かる。 ゆっくりと身体が温まっていく心地が気持ちよくて、このまま眠ってしまいたい、と思った。 ぬくぬくとしたお湯に身を任せていると、なんだか心の中まで落ち着いてくる。 ほう、と息を吐くと凝り固まっていた奥底まで解けていくような気がした。 この咲俺たちはどうなるのだろうか、と考える。 晴さんに直接、「夫婦箸の相方は誰ですか」なんて聞く勇気は俺には無い。やはり、少し距離を置くべきであろうか。 けど、と心の中の自分が叫ぶ。 昨日、俺を受け入れてくれたのは晴さんだろ、と。このまま逃げたら、いままでと変わらないじゃないか、と。 一体どうすればいいんだ、と眉間に皺を寄せ、ふぅ、とまた溜息をついた。

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