44 / 96

アメリカにいる頃はそんなものは無かったから、日本に帰国してからの3ヶ月程度でここまで追い詰められていたんだろう。 抱きしめて唇を噛み締める。 何度もごめん、ごめんと繰り返すと、少し口角を上げて俺を見つめてきた。 「もういいのよ。その言葉で充分。」 そう言って俺を抱き締め返した。 *** 次の日、俺は璃々子に家に残るよう言い聞かせ、本邸へと訪れた。その日は日曜日で、父が家にいると知っていたからだ。 父の書斎の扉を壊れるんじゃないかというくらい大きな音を立てて開け、入る。 目を丸くした父の表情をみて苛立ちが募っていく。 「なんだ騒々しい」 「なんだじゃないだろ。あんた璃々子に何をしたんだ?」 自分への怒りすらも父へと向けて、半ば八つ当たりの意もこめて睨みつける。 すると、父は困惑したような表情で「なんのことだ?」と聞き返してきた。 「なんのことだ、じゃねぇよ。一日中璃々子を本邸に招いて何してるんだって聞いてんだよ」 思わず口調が荒くなり、声も大きくなる。 「いいか、落ち着いて聞け。お前がなんのことを言ってるかは知らんが、俺はお前の嫁なんぞに時間を割く余裕はない。興味もない。だいたい、俺は日中ここを開けている。普段ここで過ごしているのは俺じゃないだろ。」 そう言われてはっとする。普段からここで過ごしていると言ったら1人しか居ない。 一一 母だ。

ともだちにシェアしよう!