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「…え?」
「昨日、全部聞いた。この広い屋敷の掃除を毎日1人でさせられていると。初めは、『家庭の味を教えてあげたいの、晴の好物だから』だっけ?それから毎日、家の掃除だけさせて、璃々子がいつ教えて貰えるのか尋ねると、のらりくらりとはぐらかし、貴方は友人とお喋り。『厨房なんかに立たせて毒でも盛られたらどうしようかと怖くて』『毎日押しかけてきて、本当に困ってる』。
それをきいたときの璃々子の気持ちを考えたことはあるか?来なかったら来ないでずっと電話を掛け続けて。限度っていうものを知らないのか?」
段々と昨日、璃々子が話してくれた時のことを思い出してしまい、熱が入ってくる。
全て言い終え、ぱっと顔を上げて母の顔を見る。
一一笑っていた。
どうしてこの状況で笑えるのか、と逆にこちらが混乱してくる。
思わず眉間に皺を寄せると、あらあら、というように母は自身の頬に手を当てた。
「いやだわ、璃々子さんってば。そんな嘘デタラメを晴に言うなんて。鵜呑みにする晴も晴よ。たかだか数年過ごしただけの女性と、私のいうこと、どちらが信頼に値するかなんて、考えなくても分かることでしょう。」
気持ち悪い、と思った。
「俺が信じるのは璃々子だよ。当たり前だろ。俺が愛している女性なんだから」
すっと母の顔から表情が消える。
「……ああ、そう。恩を仇で返すなんて悪い子ね。でも大丈夫よ。人間だもの、間違えることはあるわ。私は全てを許してあげる。けれど、あの女は駄目ね。我慢することを知らないんだから。別の女性を探しなさい?」
なにをいっているんだ、と思った。
けれど、もう、全てを察した。
一一こいつには、話が通じない。時間の無駄だ、と。
「もういい」
それだけ告げると踵を返して部屋を出た。
くすくすと未だに笑い続ける声がする。
今すぐ璃々子の顔を見て安心したいと思った。
今頃家でなにをしているだろうか。久しぶりに外食でも行こうか。
敷地の外に出て、やっと息ができる。
よし、と自分で口角をぐいっと手のひらで押し上げ、自宅へと向かった。
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