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同期
リアクションが1000を超えました!また、たくさんの方がお気に入りやしおりを挟んでくださっていて、本当にありがたいです!これからも頑張りますので、よろしくお願い致します!
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「……でさぁ、結局ぜーんぶ晴さんが払ってくれたんだよね。申し訳ないから次こそは俺が払うんだけど、スマートでかっこよくない?それで、」
「はいはい、もうわかったから、早く食えよ。あと10分で休憩終わるぞ。うどんも伸びてるだろ、それ」
「え!もうそんな時間?全然話し足りないから今日飲み行こ~~」
「えー…まあいいけど。なんか久しぶりだな」
そう言って笑うのは、営業部同期の宮野 侑 だ。口は悪いけどなかなか優しいやつで、なんだかんだいいながら俺の世話をやいてくれるから、営業部内では『宮野は伊原のお世話係』などと呼ばれている。本人は不服らしいが、だからといって俺と距離を置いたりせず、ゲイだとカミングアウトしたときも「あっそ」で終わった。
俺にとって侑は唯一無二の親友といってもいい。
侑が俺の事をどう思ってるかは知らないし、聞こうと思ったこともないけど、今飲みに行こうと誘うと面倒くさそうな雰囲気を出しつつも口角は少し上がってるから可愛いやつだと頭を撫でてやる。
「調子乗んな。置いてくぞ」
その言葉に慌てて最後の1本を啜ると、出汁を1口味わってから"ご馳走様"と呟きながら立ち上がった。
部内の自分のデスクに座り、あと1分だけど、とスマホを開く。
晴さんはどうやらメールやらラインやらが苦手らしく、お互いに時間ができたら電話することが多い。
《晴さんもそろそろお昼終わる頃?仕事頑張ってね》
すると、数秒後にピロンと通知が鳴った。
《ああ。優もな》
脳内で晴さんの声で再生されるその言葉に、なんだか力が漲ってくるような気がして、午後も頑張れるような気がした。
***
「乾杯!」
俺はカシスオレンジ、侑は焼酎水割りを片手で持ち、カンと軽快な音を立てながらグラスをぶつけあった。ごくごくと喉を鳴らして飲み込むと、仕事でくたくたになった身体に染み渡っていくような気がした。
そもそも晴さんに誘われたあの日は、浴びるように飲んでいたせいですぐにべろべろになってしまったけれど、本来はそんなに弱くない。
少しだけ苦味のあるアルコールが苦手なので、甘いものばかりを頼んでしまうが、いつかは熱燗とかかっこよく飲みたい、と思っている。
「一一で?」
「ん?」
お通しで出てきた枝豆を口に運んでむぐむぐとしていると、頬杖をついた侑がこちらをじっとみている。
なに?という意味を込めて首を傾げると、溜息をひとつついてから侑は口を開いた。
「その、晴さん…だっけ?何してる人なんだ?」
その言葉に一瞬言うべきか言わないべきか迷ったけれど、親友のよしみで教えてやることにした。
「あー……社長かな」
そういった途端、侑の目頭に皺が寄っていく。
「どんな会社」
「…他の人にいわないって約束して。…晴さんは、K・Hホールディングスの代表取締役だよ」
そういった途端、侑はぴしりと固まった。
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