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、
待ってて、の言葉を最後に電話が切れる。
「来るの?まじか」
流石の侑も驚いたようで、焼き鳥を手に持ったまま食べようともしていない。
「うん…焼き鳥、食べなよ」
俺はそう言いつつ、机の上を片付ける。何となくソワソワして落ち着かなかったのと、綺麗にしておくことで晴さんにいいところを見せられないかな、って思ったからだ。
皿を片付けてもらうついでに、店員さんに梅きゅうりを注文しておく。
きっとすぐ届くだろうけれど、晴さんが梅とか檸檬とか、酸っぱいものが好きっていってたから、きてすぐ食べられるようにしておきたかった。
まだ8時過ぎだから、多分夜ご飯食べてないよな。なにか頼んでおいて欲しいものがないか、聞いておけばよかったな。
ちょっとだけそんな後悔をしつつ、侑と会話していると、梅きゅうりが届いた。
やっぱり頼むのが早かったかな。
そんなことを思っていたら、カランカランと軽快な音を立てて、扉が開いた。
「いらっしゃいませー」
そんな声がして、入口をみると、思った通り晴さんがいた。
少し片手をあげて俺に手を振った晴さんを、店中の人が見てる。いけめんぱわーすごい。そう思いながら手を振り返すと、他の人の視線が俺に移る。ちょっと怖かった。
「ごめん、遅くなった」
「ううん、全然待ってない」
その言葉に、安心したようにそっかといって笑う。俺も釣られて頬が緩んだ。
そして、俺の目の前に座ってる侑に視線を移す。
「はじめまして、神田晴です」
「……あ、えっと、ゆ…伊原の同期の宮野侑です」
侑が俺のことを伊原って呼んだ。そのことにちょっと目を瞬かせていると、晴さんが俺の隣に座った。ビールを1杯頼むと、目の前においてある梅きゅうりを見つめる。
「晴さん、梅好きっていってたから、頼んでみた。いらなかったら、俺が食べるし、いってね」
説明してる途中に段々と後悔が押し寄せてきて、後半に連れて声が小さくなり言い訳っぽくなる。
けれど、晴さんは俺の憂いを吹き飛ばすような可愛い笑顔をうかべた。
「覚えててくれたの?嬉しい、ありがと」
そういって自然と俺の頭を撫でる。へへ、と笑みを浮かべた時だった。
「んんっ」
前から咳払いが聞こえた。ハッとして、緩んだ頬を抑えて熱を冷ます。けれど、侑のじとっとした視線に耐えられなかった。
「お、俺、トイレいってくる!!」
そういってテーブルを離れた。
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