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恋人繋ぎ

「今日は夜ご飯どうするの?」 「ん、それなんだけど、俺の好きな店予約してあるんだ。肉好き?」 「だいすき!楽しみだな、どんなお肉?」 「ステーキとか、肉寿司とか?」 「肉寿司!!俺が食べてみたかったやつ!」 肉寿司、肉寿司、と俺のオリジナルソングを歌っていると、晴さんがぽんぽんと子供をあやすときみたいに頭を撫でる。 なあに?という意味を込めて、少し首を傾げて見つめてみると、「可愛い」といって柔らかく微笑まれた。 「は、晴さん、不意打ちやめてよ…照れる…」 そういって頬を抑えてじとっと見つめると、くくっと笑われる。 「耳まで真っ赤」 そういって耳の根元をするりと撫でられる。ぴくっと反応して鼻にかかったような声を出してしまった。 「恥ずかしいからやめてっ!」 晴さんの手を掴んで動かないようにすると、車が赤信号で止まった時にするりと外されて、いわゆる恋人繋ぎにされた。 すりすりと親指で手の甲を撫でられる度に、体温が上がるような感覚になる。 俺の全神経がいま右手に集結してるんじゃないかっていうくらい手首がどくどくしているのが分かって、心臓の音が聞こえちゃわないかな、とちょっとドキドキした。 *** まだ時間に余裕があったので、店の近くの本屋に歩いていくことになった。 着いて、車から降りるために繋がれていた手が外れる。 繋いでいる時は手汗とか色々気になっていたのに、いざ手が離れてしまうと途端に寂しくなってしまう自分に、女々しいな、と思った。 けれど、そんな俺を見越してか、歩き出す時に自然と手を握られた。 外だし、晴さんは知る人ぞ知る有名人だから大丈夫なんだろうか、と心配になったけれど、本人がケロッとしていたので気にしないことにした。 街ゆく人達にみられないか、ドキドキしていたけれど意外とみんな他人に無関心なんだなあ、と思った。 前付き合っていた人達ともデートをしたことはあったけれど人前で手を繋いだことはない。俺はいちゃいちゃしたかったし、たくさん甘えたかったけれど「知り合いにみられたくない」と外では友人のような距離感でしかいなかったからだ。 だから、今こうして誰も気にせずに、外でも恋人同士でいられることがとてつもなく嬉しかった。 その言葉を伝える代わりに、ぎゅっと握り合う手に力を込めた。

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