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晴の愛
本屋さんに入ると、晴さんは雑誌を見てくると言ったので、そこで一旦別れることになった。
もちろん俺は真っ先に漫画コーナーの奥へと入っていった。目的はBL本だ。ちなみに俺は、スカトロとバッドエンド以外で、絵が好みならなんでも大好物だ。雑食だ。
でも最近は会社員ものやスパダリ系をよく読んでしまう。隠し本棚から本を引っ張ってきて、枕元に積まれたものを見たとき、自分でやったことながら思わず笑ってしまった。
今日は新作チェックが目的だった。何年か前までは周りの目をすごく気にしていたけれど、最近はむしろ堂々としているほうがいいと気がついた。
大好きな作家の人の新作が出ていて、思わずテンションがあがる。5冊ほどの本をうきうきで籠に入れた瞬間だった。
「へぇ、優ってこういうのも読むんだな」
ひょいと籠の中から一冊の本が抜かれ、まじまじと見つめられる。
思わず叫び声を挙げそうになった。にやにやとした晴さんが立っていたからだ。
「〝スパダリには重たい過去があった〟〝どろどろに甘やかされて--〟ほんとに可愛いね、おまえ」
そういってちゅっと目元にキスされる。思わず周囲を見渡して、誰もいなかったことにほっとした。BLコーナーで男同士がキスしてるなんて、想像する分には美味しいけれど自分がその立場だと笑えない。
「俺もちゃあんと甘やかしてあげるね」
そう耳元で囁かれて、イケメンすぎて腰を抜かすかと思った。なんとか崩れ落ちるのは耐えたけれど脳みそが少し蕩けているような気がした。
それからいろいろなコーナーをみて、本屋全体を歩き回ったけれど晴さんは特に欲しいものは無かったようで、「外で待ってる」といって先に出ていった。
イケメンだな、とぽやぽやと見つめていたら、入口近くにいる高校の制服を着ている女の子2人組がちらちらと晴さんをみながら囁きあってるのを見つけてしまった。
俺が、どうしようとおろおろしているうちに、2人がゆっくりと入口に近づいていく。
いますぐ止めよう、と歩きだそうとした瞬間、俺のレジの番が来てしまって慌てて会計を済ませて飛び出す。けれど、晴さんと2人組の会話が聞こえて、思わず立ち止まってしまった。
「えー、ちょっとだけ!遊んでくれません?」
「いや、恋人ときてるから」
きっぱりと断ってくれている晴さんに、嬉しくて胸がきゅんとする。けれど、女子高生たちはなんだかムッとしてしまったようだ。
「いやでも、絶対うちらのほうが可愛いと思うよ、若いしー」
「そうですよー、ね?お茶しましょうよお」
そう言われて、俺もイラッとしてしまう。晴さんは俺のなのに--そう思って足を踏み出した瞬間だった。
「一一俺の恋人より可愛い?君たちが?」
ハッと鼻で笑ったあとに、普段より低い声でそう言う。2人組は、琴線に触れてしまったのが分かったのか、少し気まずそうな顔をした。
「そういう割には自分の手入れを少し疎かにしてないか?俺の恋人はね、既に充分なくらい綺麗なのに、それでもまだ俺のために頑張ってくれるような子なんだ。…うん、やっぱりどこからどうみても、俺の恋人のほうが可愛くて綺麗だ」
そう言われて、はっと息を飲む。晴さんは〝嬉しい〟って言ってくれていたけれど、どこか信じきれていない自分がいた。
けれどに晴さんは、本当に俺のことぜんぶを好きでいてくれているんだ。頬が緩んでいくのを感じる。
嬉しくなって後ろから晴さんに抱きつくと、よしよしと頭を撫でられた。
いつの間にか2人組はいなくなっていて、俺たちはまた手を繋いで歩き出した。
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