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兄ちゃんは病院へ緊急搬送され、意識が戻るまで暫く入院することとなった。身体等には特に異常は見られなかった。 母や父、倖は俺になにもいわなかった。 けれど、俺に向けられる視線が、全てを物語っているような気がして、毎日部屋にこもって泣いていた。 事故から3日後、意識が戻ったとの連絡が入って家族全員で病室に向かっていた。けれど、病室に着いて、いざ中へ入ろうというときに、「合わせる顔がないんじゃないか」と思って、立ち止まる。 「柚!」 「母さん、父さん。倖まで、わざわざ来てくれてありがとなー」 中から聞こえてくる声にほっと息を吐く。生きていてくれてよかった。意外と明るい声色だったことに安心し、俺も中に入ろうと扉に手をかけた時だった。 「俺って、なんで事故にあったの?」 みんなが息を飲んだのがわかった。俺の心臓も、バクバクと激しい音を立ててなり始める。 「なんでって…優を助けたんでしょ?」 少し緊張したような声で母が答えた。 「優…?それって、倖の友達かなにかだっけ、」 ぎしり、と心が歪むような音がした。 「何を言って……まって、柚、貴方の家族構成は?いえる?」 「え?そんな決まりきったことをいうのか?」 「いいから答えて!!」 母が叫ぶような声でいう。渋々と言った雰囲気で兄が喋りだした。 「父さん、母さん、俺、倖の4人だろ?」 その場にいてもいられなくなって、そこが病院内であることも忘れて走り出した。 *** どうやら兄は頭をぶつけた影響で脳に障害がでたらしかった。無理に思い出させようとするのはよくない、ということで、俺は一人暮らしを始めることになった。俺が話しかけると、兄が頭を抑えて苦しみ出してしまったことも影響していたのだと思う。 兄が家に帰ってきた日、家では退院おめでとうパーティをささやかながら開いた。俺は、泊まりに来ていた倖の友達、ということになり、飾られていた家族写真は全てしまわれた。 ただの友人が家族写真に入っていたら、柚が気づいてまた苦しむかもしれない、という危機感から両親が片付けたらしかった。 母も、父も、兄も、倖も、みんないつも通りだった。ただ、兄の中に俺がいなくて、その影響でみんなも俺を消した。 倖が俺を心配そうに見ていたことなんて全く気づかなかった。 そして、俺が家を出ていく日。 今、兄は両親に連れられて家を開けていて、自宅には俺と倖しかいなかった。 「倖、お願いがあるんだけど」 「ん?なーに?」 「これ、お前からっていうことでいいから兄ちゃんに渡して欲しい。」 「……本当にいいの?」 「…うん、お願いできるか?」 「俺はいいよ。わかった、渡しておくね」 その言葉を聞いて、ありがとう、と答えてから全ての荷物を持って俺は玄関を飛び出した。

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