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自覚
「優兄!?どうしたのその目!!?」
車から降りてきた俺を見た瞬間、扉の前に座り込んでいた倖が立ち上がってこちらに駆けてきた。
「えーっと…いろいろ、話したんだ。この人…神田晴さん、俺の、恋人に…」
言ってる途中で段々恥ずかしくなってくる。
暫くぽかんとしながら俺と晴さんを交互に見つめていた倖だったが、にっこりと笑った。
「優兄が自分から紹介してくれるの、初めてだ」
そうだっけ?と考えて、初めて気づく。
これまで、倖がきいてきて初めて会わせたことや、居合わせて名前を紹介したことはあっても、自分から恋人だと紹介したことは無かった気がする。
「優兄にとって、大事な人ってことだね」
そう小声で言われて、顔に熱が集まるのがわかった。そして、気づいた。
俺にとって、もう晴さんは〝代わり〟ではなく、〝大事な人〟なんだということに。
ちらりと晴さんを盗み見ると、目が合って、にこりと微笑まれる。
はっきりと自覚した瞬間、今までだったら余裕を持って笑い返せていたものが、とても恥ずかしく思えて目を逸らしてしまう。
くすくすと笑った声が聞こえたから、きっと顔が赤いことに気づかれたんだと思った。
「どうしたの?」
そっと頬を撫でられ、顎に手をかけ持ち上げられる。
なんでもない、と不格好ながらに笑いかけると、ちゅっと唇が奪われた。
ひゅう、とからかうような倖の口笛が聞こえる。
「ちょっ、晴さん、弟の前では、恥ずかしい…っ」
思わず晴さんの胸を押して距離をとろうとすると、少ししゅんと眉を下げた晴さんと目が合う。
そういう顔はずるいってば…!!
不覚にもきゅんとしてしまい、胸板を押す力が緩んだ。
するとその隙にぐっと近づいてきた晴さんが耳元で囁く。
「じゃあ、続きはあとでね」
その一言で、俺は昨夜のことを思い出してしまい、顔を真っ赤にして俯くことしか出来なかった。
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