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家族

あれから1週間が過ぎた。 「よし、いくか」 約5年ぶりの実家。玄関の前に立ち、深呼吸する。 どきどきする胸をおさえながら、右手をみる。 晴さんも着いてきて、とお願いしたとき、それは駄目だ、と言われた。 「帰ってきたらたくさん甘やかしてあげる。でも、これは優が自分で勇気を出さないと駄目だよ」 でも俺は優の味方だからね。そういってぎゅっと握られた右手。 頑張るね、と気持ちを込めてぎゅっと握りしめた。 そっと扉を開ける。 「……ただ、いま」 喉がカラカラに乾いていたせいで、思ったよりも小さな声だったけれど、待ち構えていた人には聞こえたようだった。 「おかえり」 そういわれて顔をあげる。俺の大好きだった、穏やかな笑みを浮かべた兄さんがいた。 どきっとした。 もしかして、全部思い出してくれた? そう聞こうとして、手を伸ばした瞬間だった。 「優くん、久しぶりだね」 その言葉に、力が抜ける。兄さんは、俺の事を〝優〟とよぶ。〝優くん〟とよぶ。 思わず自嘲が漏れた。 「……うん、そうだね、」 柚さん、と伝えようとしたとき、倖が俺の右手を握った。 視線を向けると、なにかを訴えかけるようにこちらをじっと見ている。 安心させるように頷く。 改めて、向き直して、いう。 「……ただいま、兄さん」 その言葉に目が見開かれる。けれど、ふわりふわりと解けていって、くしゃりと頭が撫でられた。 それは、兄さんが俺を甘やかすときの癖だった。 目が潤んできて、視界が滲む。 けれど、ここで泣く訳にはいかなかった。 「…話があるんだ、兄さん。母さん、父さんも。」 リビングからこちらを覗いていた両親にも声をかける。 きっと、倖も同じ顔をしていただろう。 俺たちの顔を交互に見ていた両親がこちらに近づいてくる。 思わず身構えてしまった俺に、ふと影が落ちる。 「一一おかえり、優」 そっと、大切なものに触れるかのように抱きしめられた。 久しぶりにみる両親は、朧気になっていた記憶より少し小さく見えて。 俺の涙腺、壊れてる。 そんなことを考えながら、少し泣いてしまった。

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