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「…俺と、優と、倖で、兄弟…」 ぽつり、とつぶやくその声に、少し頭が冷えた。 どんな表情をしているのか、気になるのに見ることが出来ない。じっと俯いて耐えていた。 ぽん、と頭に手が乗る感触がする。 「…ごめん、俺、思い出せなくて。 でも、すごく大事だった気がするんだ。 この時計も。倖からもらったけど、倖はこういうの選ぶセンス無いからもしかしたら優からなのかなって思ってた。遅くなったけど、ありがとな。大事に使わせてもらってる」 そういって少し捲られた袖から覗いたのは、あの日一柚兄さんが事故にあった日一俺が渡そうとしていた時計だった。 じわり、と涙が滲む。 「柚兄さん、俺のせいで、怪我させて、ごめん…っ!俺、ずっと、謝りたくてっ…!」 柚兄さんの服に縋り付くような形で訴えかけると、優しく背中を撫でられた。 その感触は、やっぱり昔と変わらず暖かくて。記憶が無くても、兄さんは兄さんだったんだ、と思った。 ✳︎✳︎✳︎ 「--それで、『これからはたまに帰ってきなさい』っていわれた。あと、兄さんから『俺の大事な人も紹介したい』って。俺、嬉しかった」 あれから、土曜日だし泊まっていきなよ、という両親たちの言葉を断って、晴さんのところへ来た。 1週間ぶりの晴さんと、隣同士でベッドに並んで座ってもたれかかるような形で今日1日のことを話していた。 「晴さんのおかげで勇気出せた。ありがとう」 そういって右手を天井に翳しながら晴さんをみて微笑む。 柔らかく微笑み返してくれた晴さんが、俺のこめかみ辺りにそっとキスを落として、頭を撫でてくれる。 今日は、父さんとか、母さんとか、兄さんとか。いろいろな人に撫でられたけれど、一番安心するのは晴さんの手だなぁ、などと考えながら2人で抱き合って眠った。 そういうコトをせずに、2人でこうして寝るのはあまりなかったけれど、とてもぽかぽかで気持ちが良かった。 その日は、なんだかとてもいい夢をみた。

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