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結婚式
会場の前で、倖たちと合流する。そのまま、柚兄さんの所へ向かった。
「兄さん」
「優」
声を掛けると、軽く微笑まれる。
「今日は、おめでとう。すごく似合ってる」
兄さんの黒髪と白色のスーツが合っていて、とてもかっこよく見えた。
「ほんとほんと、すげぇね」
倖も、興奮したように兄さんに駆け寄っている。
「ありがとう。本当に、いまやれることが嬉しい」
そう、実は本当なら結婚式をやれるのはもっと先だった。それが、突然キャンセルが出て、今日になった。
正直、こんなに突然のつもりではなかったらしく、招待状やらドレスやら料理やらと、とても大変そうだった。
兄さんの彼女もとい、奥さんになる人は、真奈さんという。
兄さんが事故に遭う前から親しくしていたらしいのだが、事故にあって、怪我とかの後遺症で苦しんでいる時からさらに親身になって支えていたらしく、兄さんの大学の同級生の人達は『やっとか』といって笑っていた。
兄さんに紹介してもらった時に、俺も晴さんのことを紹介した。とても驚いていたけれど、こっそりと俺に耳打ちしてきた時のことを、俺は忘れないと思う。
『優さん、私ね、柚くんには言ってあったんだけど、実は腐女子なの。リアルは無理だと思ってたけど、優さんも神田さんも素敵だからドキドキしちゃった!』
といってお茶目にウインクをしてみせた真奈さんは、俺から見てもとても可愛く見えたし、ああ、この人はいいひとだなぁ、って心から思えた。
だから俺は、心から2人の結婚を祝福している。
「兄さん、ほんとにほんとに、おめでとう」
「ありがとう。あの、優…俺、昨日、全部思い出したんだ。」
その言葉にひゅっと息を飲む。そう言われれば、柚兄さんは記憶が無い時、ずっと俺の事を「優」と呼んだり、「優くん」と呼んだりと、不安定だったのに対し、今日はずっと「優」と呼んでいる。
父さんと母さん、倖と晴さんまで固唾を飲んで俺たちを見守っていた。
「優のこと、忘れちゃうなんて、兄貴失格かなぁ…」
そういって少し目を潤ませた兄さんの手を俺はそっと取って、微笑んだ。
「……そんなことないよ。柚兄さんは、俺の自慢の兄ちゃんだから。俺のこと守ってくれてありがとう。これからは、真奈さんを守ってあげてね」
晴さんが俺の半歩後ろに立って、俺の腰をゆるく抱く。
「…うん、ありがとう…神田さん、優を、よろしくお願いします」
そういって頭を下げた柚兄。
「もちろんです。顔を上げてください…!」
慌てたようにそういう晴さんが、真面目な顔で目に涙を浮かべる兄さんが、なんだかとても可笑しくみえて、俺は声を出して笑った。
つられたように柚兄さんと晴さんも笑い出すと、みんなも面白くなってきたようで、控え室には笑い声が響いていた。
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