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勇気

「じゃあ、またあとでね」 そういって手を振り合い、俺たちは一足先に教会に入る。 外からみても白亜のお城の様でとてもわくわくしたけれど、中に入るとよりどきどきする。既に結構な数の人が入っていて、どことなくみんなそわそわとしていた。 俺たちの席に座り、ふぅ、と息をつくと、隣に座っている晴さんがちょいちょいと俺のスーツの袖を引っ張った。なあに、という気持ちを込めて晴さんを見、首を傾げると、晴さんは兄さんたちが誓いのキスをするであろう場所を指さした。 すっとそちらに釣られるように視線を向けて、息を飲んだ。 「うわぁぁ…っ、綺麗…!」 そこには、大きなステンドグラスがあった。 今日は少し曇が多い日なので、光は差し込んではいなかったものの、その荘厳さには思わず見とれてしまうような美しさがある。 「…俺たちの初デートにも、綺麗なやつあったよね」 そういって晴さんに笑いかけると、晴さんも微笑んだ。 「俺も、同じこと思い返してた。 …あのさ、優。俺、優に会えて本当に良かったよ。ずっと一緒にいたいって思ってる。ただ…」 そこで言葉を詰まらせた晴さんの手が震えていることに気がついた。 そっと手を握ると、晴さんも握り返してくる。 「…ただ、少し、怖い。俺は、璃々子を守れなかったから…」 俺は少し息を飲んだ。そして、ぎゅっと晴さんの手を握る手に力を込める。 「…ねぇ、晴さん。俺は、璃々子さんのこと全然知らないから、こうしたほうが喜ぶと思う、みたいな無責任なことはいえない。 でも、俺は、いまこうして晴さんと出会えて、一緒に兄さんの結婚式にも出れて、真奈さんも倖も父さんも母さんも俺たちを受け入れてくれてる。だから、俺はすごく幸せだよ」 そういって少し微笑むと、目を見開いた晴さんがこちらを凝視していた。 「これからどうなるかはわかんないし、もしかしたら俺も病気になるかもしれない。晴さんだって、急に事故にあって、命を無くしてしまうかもしれない。わかんないことを心配してても、意味ないよ。 でも、それでも晴さんが不安なら、俺に言って?俺も男だから、たくさん頼っていいんだよ。守られるだけじゃなくて、俺も晴さんを守りたい」 晴さんは、静かに泣いた。そして、俺をみて、笑った。 「優、すきだよ」 「俺も」 お互いに笑いあった瞬間、司会の人が参列者にたつようアナウンスする。 静かで、綺麗な音楽が流れ出して、扉が開く。 ゆっくり、堂々と歩く2人をじいっと見つめる俺に、晴さんがそっと囁く。 「俺たちも、式あげようか」 俺がばっと晴さんを見ると、吹っ切れたように笑う晴さんがいて、嬉しくて満面の笑みで頷いた。

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