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兄さんと真奈さんが愛を誓いあって、兄さんがそっとベールをめくる。 幸せいっぱいといった表情で笑いあった2人は、そっと触れるだけのキスをした。 そのとき、くもっていたはずの空からすうっと光がさしてきて、色とりどりの光が兄さんたちに降り注いだ。 その様子は、とても神秘的で、映画のワンシーンでも見ているかのようだった。 いつも、家族のことを大切に考えていてくれた兄さんが、少し遠くにいってしまったようで、なんだか寂しい気持ちもあったけれど、それよりもやはり幸せそうな2人を見られたことがとても嬉しかった。 2人が窓の外に出るのに従って、俺たちも外に出る。階段を少し上がって、踊り場のようになっている場所で2人が止まる。 さわやかに笑った真奈さんと目が合った気がした。 真奈さんの手から、綺麗な花束が放たれる。 綺麗な放物線を描いてくるくると回るそれが、段々と近づいてきた。 俺は、思わず両手を広げて受け止める。 こういうのって普通は、女性たちが受け取るものなのでは…?そう思って、真奈さんたちをみると、「柚くん、届いたよ!」といって楽しそうに笑いあっていたから、まぁいいか、と思うことにした。 「次は俺たち、ってことかな」 そういって晴さんをみると、にこりと微笑まれる。 「日本でやる?海外でやる?実は、結構LGBTのひとたちが挙式出来るようなところあるみたいだよ」 「え、そうなの?日本でも出来るのか… ていうか、晴さん調べてたんだね」 俺も後で調べてみよう、と思っていると、晴さんに「あとで一緒にみようか」と囁かれた。離れるときに、さりげなく頬にキスされる。 俺は、なんだか恥ずかしくて、花束で顔を隠しながらそっと頷いた。 *** それから、披露宴になった。ケーキバイトで、真奈さんがとんでもない大きさのケーキを兄さんに食べさせようとして、パイ投げされた芸能人のように真っ白に兄さんがなってしまったり、慣れていないのにお酒を飲んでテンションが上がりまくった倖が色んな人に絡むのを止めたり、なんだかドタバタわちゃわちゃしていたけれど、とても楽しかった。 全部終わって、今から二次会になる。 けれど、俺と晴さんは遠慮しておくことにした。少し頬の赤い真奈さんが俺たちの腕にすがりついて一緒に二次会いきましょうよぉ、と絡んできていたけれど、真奈さんのお友達が回収していった。少し苦笑した兄さんが話し出す。 「真奈のことは気にしなくていいから。今度、落ち着いたらまたゆっくり話そう。今日は、本当に来てくれてありがとな。 神田さんも、今日は本当にありがとうございました。優のこと、よろしくお願いします」 ぽんぽんと俺の頭を撫でた柚兄さんは、晴さんに向き直って頭を下げた。 「全然、俺こそ新参者なのに親族席に座らせて頂けて、本当に嬉しかったです。末永く、お幸せに」 そういって笑った晴さんは、どこか遠い目をしていて、また璃々子さんのことを思い出しているのかな、となんとなく思った。 そっと晴さんの手を握り、目線で訴えてみる。 少し困ったように俺に笑いかけた晴さんは、それでもしっかり俺の手を握り返してくれたから、大丈夫だと思えた。 「帰ろうか」 もう空に、雲はひとつもなかった。

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