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ご挨拶
これは、1つ前の話から3年経ち優と晴が式を挙げる少し前のお話です。
暫くぶりの投稿となってしまい、申し訳ございません🙇🏻♀️
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「晴さん、大丈夫?ほんとに変なところない?」
「大丈夫だって。何回も確認しただろ?」
「うん…手土産も、これで大丈夫かな、他のものの方が良かったかなぁ…」
「はいはい、そこの店の和菓子は父さんの好物なんだから大丈夫だって。ほら、もう行くよ」
でも、と俺がそわそわしていると焦れたように晴さんが俺の手を引いて歩き出す。
そう、今日は俺が初めて晴さんのお父さんに挨拶する日なのだ。
晴さんのお父さんの名前は、神田 葉月 さんというらしい。KHは、葉月さんの頭文字をとったものだときいたときは驚いた。
晴さんは会社を継いだので、どうして晴さんの名前の頭文字なんだろう、とは思っていたが、まさか晴さんのお父さんもHから始まる人だったとは。
「優、いくよ?」
晴さんのその言葉に、はっとどこか遠くに行っていた意識が戻ってくる。ぐっと力を込めて拳を握りしめると、ぐいぐいと口角を押し上げて笑顔を作る。よし、と気合を入れてから、そっと呼び鈴を鳴らした。
とんとんとこちらに足音が近づいてくる。
ガラリと扉が開いて、晴さんが歳を重ねたらこうなるんだろうなあ、というような、けれども威圧されるような威厳のある方がいて、その後ろは「玄関ですか」と聞きたくなるほど広い。
ほわぁ、とテレビをみているようでぼんやりとしていると、晴さんがとんと俺の背中を押した。
はっとして、笑みを浮かべる。
「初めまして、神田晴さんとお付き合いさせて頂いております、伊原優と申します。本日はお時間を頂戴し、ありがとうございます。」
そういって軽く頭を下げる。
すると、ほう、という溜息のような息のあと、「上がりなさい」とお声がけして頂けた。
晴さんの方をみて、やった、という気持ちを伝えたかったが、ぐっと我慢して、「ありがとうございます、失礼します」と微笑み、晴さんが靴を脱いだのに従って俺も靴を脱ぎ、揃えてから立ち上がる。
それをじっとみていた晴さんのお父さんが、くるりと背を向けて歩き出した。晴さんが「偉い」と言うかのように頭を撫でてくれる。
とりあえず第1関門突破だ。
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