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客間に案内され、晴さんのお父さんが上座に、晴さんがその正面に座ったので、俺も失礼します、と声をかけてから晴さんの隣に腰を下ろす。
「こちら、ほんのお気持ちですが、受け取っていただけるとありがたいです」
柔らかく笑みを浮かべたまま、紙袋から取り出した和菓子を机のうえに置く。そっと覗き込むような仕草を晴さんのお父さんがされたので、軽く手で寄せながら、再び笑い掛けた。
「晴さんから、桐廉さんの和菓子を好まれていると伺ったので…」
「ありがたい。頂いておこう」
そういって軽く頬を緩ませてそっと箱を手に取った、その表情が、好物を目の前にした晴さんの表情にとても似ていて、思わず笑みを深めて声を漏らしてしまった。
すると、2人して「どうした?」といいたげに首を傾げてこちらをみてくるから、俺はとうとう耐えきれずにあはは、と笑ってしまう。
「晴さんは、とても晴さんのお父さんに似ていらっしゃいますね」
「当たり前だよ。俺は父さんの子だし、尊敬しているからね」
晴さんが拗ねたようにそう言った。思わず目をぱちくりとしてしまう。晴さんのお父さんも少し驚いたように目を見張っていた。
「なに、2人ともそんな顔で見ないで。俺より優と父さんのほうが似ているんじゃないか?」
そんなふうに茶化した晴さんは、そっと俺の頭を撫でてから「茶をくんでくる」と言って立ち上がった。
俺が、と言おうとしたが、「初めて来たんだから場所分からないだろ?」と優しく宥められる。確かにそうだ、とぐうの音も出ない俺は、大人しく席につくことしかできなかった。
「そうだ父さん、桐廉のお菓子いまから食べる?」
そういって障子に手をかけた晴さんが振り返ると、微かに頷いたので、俺はそっと息をついた。
けれど、それよりも大変な問題が俺を打ちのめしていた。
晴さんが出ていって、とんとんという足音が遠ざかっていく。
俺は、今すぐに晴さんの足にすがりついて「お願いだから2人きりにしないで」と言いたかった。
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私の未完の前作品をお気に入りしてくださる方、大変嬉しいですが、今のところ更新する予定はございません。
ご挨拶の作法などは、余り詳しくないため、これは駄目だなどということがありましたら、遠慮なく教えていただけると嬉しいです。また、誤字等もありましたら優しく教えてください。作者はお豆腐メンタルなので。よろしくお願い致します。
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