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もう雅じゃないから
木戸は俺の頭をそっと優しく撫でて、そのまま頬に触れる。
俺は頬に触れていた木戸の掌をそっと掴む。……とても温かかった。
「……ごめんね…もう少し早く俺が来れたらよかったのに…雅ちゃんのかわいい顔に傷つけちゃたね」
俺は、大きく目を見開くと、なんだか涙が出そうになった。
「……もう、雅じゃないし」
「…それに、怖い思いもさせちゃったね……ごめん」
木戸は、俺を抱き締めた。
「……俺、なにもされてないから大丈夫…」
そう、実際は、触られただけ。だから、大丈夫。
「……怖かったけど……。あの、ありがとう……その…」
後は何を言っていいかわからない。俺は、ただ木戸の顔をじっと見つめるしかなかった。
「雅ちゃん…。そんな、うるうるした目で見つめられると……。俺、がまん出来なくなるよ」
そう言って、キスをして来た。そのキスはより激しく、舌が口腔をまさぐってくる。キスは耳殻へ行き、そして、そのまま首へと移って行く。
木戸の息が首にかかる。それはとても熱くて、ざわざわとした感覚…。
「…や……」
…このまま流されてしまう……。
でも、このまま行ってもいいと、思えてきた。
でも、だめだ…。だめだ。
「や…めて、木戸さん」
俺は、木戸から身体を反らそうとした。
「…雅ちゃん……」
「……俺、あの店、辞めたから…"雅"じゃなくなったし。だから、こういう事は…出来ないよ……」
木戸は俺の事をじっと見て言った。
「……雅ちゃんは、俺の事嫌い??」
…俺は……?どうなんだろう……。
「嫌いじゃない…でも…」
答えに困っていると、木戸は、
「俺は、雅ちゃんの事、大好きだよ。一目で惚れちゃったし」
と、言ってまたキスをしてきた。
「…雅ちゃんが、お金の為にあの店のにいたとしても。気にしない」
……これって、俺、口説かれてるってやつ?なのか?…なんだか、ものすごく。どきどきする……。
なんで?俺は「普通」でこういう、異常なシチュエーションなんて有り得るわけがないのに。
"俺は、木戸に惚れちゃった?"
だめだ………。
流される……
でも…。
それでもいいか……。
「だから、もう俺は雅じゃないから……」
言葉は、キスをされ、最後まで言えなかった。
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