19 / 54
ご飯
ドアをノックしたのは、『Blak'n Blue』の店長の中川だった。
「あんた、さあ。うちの店辞めちゃて翔ちゃんにただでヤらせるなんて勿体ない」
俺を見るや否や中川店長はそう言い放った。店長は微妙にオネエ言葉風味で可笑しい感じがした。
だけど、俺はそんな事はどうでもよくて、目の前のごはんを食べるのに全集中していた。
俺が死にそうに腹が減っているのを見た店長が「今、なんにも材料がないのよ」
とか言いながらも、すぐあったものでいろいろ料理を作ってくれた。白いごはんがいいと言ったらご飯も沢山でてきた。しかもおいしいし。
2人は、俺が夢中で食べている脇で色々話し始めた。
「翔ちゃんって言うのやめてくれない?」
「いいじゃない。他人のふりしなくったってね。もう雅ちゃんは、うちの店の子じゃないし。今は翔ちゃんの家に来たお客さんでしょ?」
俺はとりあえず、一息ついてほっとしていた。落ち着いて2人の会話を聞いていると次々と色んな疑問が生まれて来た。
何故木戸の事を"翔ちゃん"って言っているんだろう?
他人のふりしなくてもいいってどういうことなんだろう?
それに、…なんで、店長がここでご飯を作っているんだろう?
あれ?
「店長?何でここに居るんですか?」
店長と木戸は顔を見合わせて笑った。
「あんた、さんざ食べて今頃言うなんて。変な子」
店長が呆れたように言った。
お腹いっぱいになったら、余裕が出てきて色々考えられるようになったんじゃん……。
でも、遅すぎかもだけど……。
「だって、翔ちゃんと一緒に住んでるんだもの」
一緒に住んでる?ってそれって?
「え?どういうこと?」
一緒に住んでいる。ってことはルームメイト?……ではなさそう。オネエぎみの店長と男好きな変態男の2人が一緒にっていう事は……?
いきつく答えは……
「え?それって2人がデキてるってやつ?」
思わず声に出してしまった。言ってしまってやばって感じになった。少し前までこういう発想自体しなかったのに……。色々毒されているとしか。
2人は顔を見合わせて笑った。
「違う違う~。私の姉さんの子が翔ちゃんなの」
「中川店長は、俺の叔父さんなんだよ」
木戸が続けて言った。
「それにね、翔ちゃんと私はね。全然違うの。タイプ違うから、私は基本これでも女好きだし」
何故それでオネエ言葉なんだ?もう、頭に「?」がいっぱいですけど。
「俺は、雅ちゃんみたいな子が好きなんだよ」
やっぱりよくわからないし。もう、いいや・・・。
「あはは、雅ちゃん混乱してる」
「もう考えるのやめます。とりあえず。店長の作ったご飯。おいしかったです」
「嬉しい。ありがと」
店長はにこにこして俺に抱きつく。だけど、木戸がものすごく睨んでいた。
ともだちにシェアしよう!