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不穏な影
抱きつかれそうになって、俺は翔平に思わず言う。
「やめろ。こんな、人目につくとこで」
いくらみんなに知られて噂に成ってるからって言っても、堂々とこんな人目につくところで抱き合うなんてしたくない。
「冷たいなーま、いいか。じゃ、車に乗って」
翔平は、車に乗ったとたん、いきなり、俺にキスをした。
「翔平、ちょっとやめて」
「なんで。最近さ。忙しくて、いちゃいちゃする暇なかったから」
「だって、大学敷地内じゃないか……だれかに見られたら」
「車の中だから大丈夫だよ」
だよっていっても、車に入っていきなりはやめてほしい。
「最近、ゆっくり、出来なかったからさ。面白いところに連れてってあげるよ」
そうだ、翔平は、仕事が忙しくてホントにここ最近、家に帰って来るのも深夜すぎだったよな。
「……仕事、大丈夫なの?」
「まぁ、とりあえずは。大丈夫」
にっこり、笑う翔平。
……仕事が忙しかったのは、その原因の1つには某有名IT企業同士の、吸収、合併騒動があったからだ。
その余波は、翔平の会社にも及んでいたんだけれども、それよりも……。
その余波が終わったころに起こった事案が、翔平の会社には、重大な出来事だった。
それは、最近、急激にこっち方面で力をつけて来た。M社という会社とのことだった。
そのM社は、翔平の会社のやってる事業と被って、しかも、向こうは、相当なコネもあったらしく、取引先の何件かがそのライバル企業のM社へ流れたらしい。それがかなりのダメージで、ここ1か月ばかりは、翔平は色々と駆け回ってその対策を講じていた。
俺にはそういう会社関係の難しい事はよくわからないんだけども、とにかく、翔平はそんなこんなで、毎日のように帰宅が遅くなっていた。
「とりあえずは落ち着いた。……まあ、俺の手にかかれば、取引先の一つや二つのがしてもなんとかなるんだよ」
翔平はなんだかドヤ顔で言っていた。
「大丈夫なの?」
「もちろん!……それよか、雅ちゃんこれから行く所、楽しみにしててよ」
翔平はそう言って、車を走らせた。
だけど、遠くで見ている人影に、その時、俺は気がついていなかった。
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