28 / 54

不穏な影

抱きつかれそうになって、俺は翔平に思わず言う。 「やめろ。こんな、人目につくとこで」 いくらみんなに知られて噂に成ってるからって言っても、堂々とこんな人目につくところで抱き合うなんてしたくない。 「冷たいなーま、いいか。じゃ、車に乗って」 翔平は、車に乗ったとたん、いきなり、俺にキスをした。 「翔平、ちょっとやめて」 「なんで。最近さ。忙しくて、いちゃいちゃする暇なかったから」 「だって、大学敷地内じゃないか……だれかに見られたら」 「車の中だから大丈夫だよ」 だよっていっても、車に入っていきなりはやめてほしい。 「最近、ゆっくり、出来なかったからさ。面白いところに連れてってあげるよ」 そうだ、翔平は、仕事が忙しくてホントにここ最近、家に帰って来るのも深夜すぎだったよな。 「……仕事、大丈夫なの?」 「まぁ、とりあえずは。大丈夫」 にっこり、笑う翔平。 ……仕事が忙しかったのは、その原因の1つには某有名IT企業同士の、吸収、合併騒動があったからだ。 その余波は、翔平の会社にも及んでいたんだけれども、それよりも……。 その余波が終わったころに起こった事案が、翔平の会社には、重大な出来事だった。 それは、最近、急激にこっち方面で力をつけて来た。M社という会社とのことだった。 そのM社は、翔平の会社のやってる事業と被って、しかも、向こうは、相当なコネもあったらしく、取引先の何件かがそのライバル企業のM社へ流れたらしい。それがかなりのダメージで、ここ1か月ばかりは、翔平は色々と駆け回ってその対策を講じていた。 俺にはそういう会社関係の難しい事はよくわからないんだけども、とにかく、翔平はそんなこんなで、毎日のように帰宅が遅くなっていた。 「とりあえずは落ち着いた。……まあ、俺の手にかかれば、取引先の一つや二つのがしてもなんとかなるんだよ」 翔平はなんだかドヤ顔で言っていた。 「大丈夫なの?」 「もちろん!……それよか、雅ちゃんこれから行く所、楽しみにしててよ」 翔平はそう言って、車を走らせた。 だけど、遠くで見ている人影に、その時、俺は気がついていなかった。 . .

ともだちにシェアしよう!