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行き成り… ※
………
……
…
はっと気がつくと、目に入ったのは蛍光灯の明るい光だった。
ここは、一体何処だろう?
俺ってばどうしちゃったんだったっけ?
先ほどまでの事を思い出した。
ここって、倉沢の……家?マンションの部屋?
あたりを見回すと、こじんまりとした、よく片付けられているどこかのマンションらしき一室の部屋だった。
そして、寝かされているのは。
"……ベッドの上?!"
あ……このパターン。なんか何処かであった気が。すごい既視感ありありなんですけど。
思い切って飛び起きた。それで、自分の身体をあちこち触ってみる。
"何もされてない"
思わずほっとする。つか、みんながみんな翔平みたいなやつばかりじゃないよな。服だってそのままだ。
当たり前か。
普通、オトコ同士でどーこーなんて一般常識的には無い。ふうっと溜息をつくと、カチャっという音がして、部屋のドアが開いた。
「起きましたか?」
倉沢が部屋に入ってきた。これどうぞと言いながら冷たい水をコップに入れたものを渡された。
「ありがとうございます」
そうだよな。倉沢先生は、ホントに親切でこんなにしてくれてるのに。俺ってば色々勘ぐってるなんて、失礼すぎた。
だけど倉沢はさりげない様子で行き成り、
「そういえば、鮎川くん。木戸翔平とはどういった関係なの?」
と聞いてきた。
「……え」
俺は飲んでいた水をこぼしそうになった。
「あの……」
えっと、何て答えたらいいんだろう。どうしようと色々、頭をぐるぐる巡らせていると
「知ってますよ、木戸とあなたが、『恋人』だっていう噂……それに」
倉沢がニヤリと笑う。
「私、見てたんですよ。この前、あなたが木戸と車の中でしてたこと」
車って……?あ。
この前、翔平が車の中で行き成りキスした……あれ?
やっぱり見られてたんだ。あんな事すぐに翔平がするからいけないんだ。
「本当の事を言っても大丈夫ですよ?」
倉沢はにっこり笑うと続けて言った。
「木戸とは……知り合いですし」
「知りあい?」
「ええ、若い頃のね」
"……だから……木戸とは"
その時、行き成り、倉沢にベッドの上へ押し倒されて、両手首を掴まれた。
「え…何?」
「俺はあいつに許せない事があってね・・・」
"……だからね。……私はあいつの大事なモノを奪う事にしたんです"
そう倉沢は微笑んで言った。
「……何言って……」
目の前に倉沢の瞳が迫ってきた。その瞳の色は少し茶がかっていて、微笑んでいる顔とは裏腹に目は笑ってはいなくとても冷たかった。
倉沢の顔は整っているといえば整っていて、そんな顔が、冷静に、しかも意地悪く迫ってきていると、かなり迫力がある。
"え…"
倉沢は行き成り俺の首筋にキスをしてきた。
行き成りの事で頭が真っ白になって、どうしたらいいのかわからなかった。
掴まれた手は少しも動かせないし痛い。
押し返したいのに押し返せない。
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