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翔平と倉沢

………… …… … 「倉沢って実力のあるやつでさ。あいつの作った、パソコンゲーム。それがかなり評判がよかったんだよ。ちまたでは人気もあって、…で、それを家庭用ゲーム用に売り出そうと幾つかの企業が彼にアプローチをかけて来て・・・・結局B社という、大手ゲームメーカーと契約したんだけど」 翔平は倉沢の事を話し始めた。 「倉沢はその時はかなり有頂天になっていて、契約の時に、俺がかなり慎重にと助言したんだけど。やつはソレが俺が嫉妬しているから言っているのだと思ったみたいで、さっさと契約しちゃったんだよね」 で、蓋をあけたら、契約時にかなり不利な条件を挙げられていて、あげくには、彼の著作としての権利は皆無になっていた。やつはその不利な条件の項目には目が行かなかったらしい。 「というか、かなり巧妙に記載されていて、大学卒業するかしないか程度の若造にはわからなかったんだろうと思う」 そのゲームってどんなゲームなんだろう?俺も知っているのかも?って思って翔平に聞いてみた。翔平はあるゲームの名前を言った。 「それって……。今も人気のやつじゃ?シリーズにもなってる。それ、倉沢先生が作ったの?」 「ほぼ、大元はあいつだな。今のやつは、ちょっと毛色が変わってしまったけれども、最初のがなければ今のシリーズもなかった」 うわ、そうだったんだ。知らなかった。 「それって訴えたらなんとかなるんじゃないの?」 「いや、契約書はきちんとしたものだし、ゲームメーカー側にはなんの問題もないんだ。それに、サインをしてしまったのは倉沢だ」 なんだか大人の世界のものすごく黒いというか闇というか、そんな世界を見てしまった気がする。 「倉沢はそれ以来、才能があるのにもかかわらず、決まったところにはいないで、点々あちこち流れている。フリーでやっているといえば聞こえはいいけど、今は派遣でパソコン技術系資格の講師をやっているんだろ?」 翔平が言うには 「なんで倉沢が自分を恨んでいるかと言うと、ひとつが、"契約時に俺が強く止めなかったこと"と、それから、もうひとつは……。すれ違いかな…」 「すれ違い?」 それって?と思っていると、

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