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鷹取光輝01
書斎からは明かりが漏れていた。よかった、父はまだ起きていた。ドアノブに手をかけ……でも、ドアはひらかなかった。鍵がかかっている。鍵……? どうして……? ノックしようと思ったそのとき、
「……っ、ああっ……そ、んな、ふか、い……あああっ」
耳を疑うような嬌声が聞こえてきた。
嬌声、といっても、女のものじゃない。男のものだ。
男なのに、女みたいに派手に喘いでいる。こんなに赤裸々な喘ぎ声は、今まで聞いたことがなかった。人間のものとは思えない、思いたくない……そう、たとえるなら、獣の声。
「あ……ああっ、いっぱい、突いて、こすって……そこ……ぱんぱんに膨れちゃって、く、るしいから……ひっ、あ、やっ……く、る……き、てる……おっきいの、が……ああんっ」
恥じらいも何もない声に混じって、パンパンと肌のぶつかる音がする。
セックスだ。
セックスなんてエッチな漫画とか動画の中でしか知らなかった。ファンタジーみたいなものだった。それが……現実に起こっている。
セックスは、ふたりでする行為。喘ぎ声は父の声じゃない。ここは父の書斎。父はいるはずなのに……
立ち尽くしていると、いろんな音を聞き分けられるようになってくる。ソファが軋む音、ぐちゃぐちゃと粘着質な音、そして肌のぶつかる音に合わせて、「ふっ、ふっ……」と、抑え気味の声。聞き覚えのある……父の声。そう気づいた瞬間、ぞくり、と背筋が震えた。閉ざされたドア、かけられた鍵までもが、いやらしいものに見えてくる。
「あっ、あっ、あ……だめっ、また、またイっちゃう……イく、の止まんない……っ、あっ、駄目、抜かない、で……お、くに……おく、に、ほし……あああああっ」
ひときわ大きい声を上げて、絶頂したのが分かった。
「きてる……どくどく……あついの……」
おぞましい行為がようやく終わってくれたのかと、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、静かになったのは一瞬だけ。鎮火したかに思えた火が、実はまだ消えていなかったときのように、喘ぎ声が再び大きくなった。もっともっととねだる声。じゅるじゅると、何かにむしゃぶりつくような音。
「……今日は一段とひどいな」
そう、父が呟く声がした。
「もっと……もっと欲しい……アルファの……アルファのせーえき……たくさん欲しい……」
「ちょっ、もうこれ以上は……」
めずらしく父が狼狽えているのが分かった。けれどじゅぽじゅぽと卑猥な音は止まらない。屍肉を食らうような音だと思った。このままじゃ父が食い殺されてしまうんじゃないか。でも自分はどうすることもできない。てのひらに爪が食い込んでいく。
「まだ……まだ足りない……ふふ……あー……これ……本当に、好き……アルファのおちんぽ好き……」
「っ……もうやめろ、早坂……っ」
早坂……
確かにそう、聞こえた。
早坂……嘘だ。早坂……? 本当に? あられもない声を上げているのが早坂? 父とセックスしているのが……
「そんなこと言って、またこんなにおっきくなって……ああ……やだ……さっき、出してもらったのがこぼれちゃう……でも、いっかあ……またたくさん出してくれますよね……」
「……っ」
「ほら、じっとしてて。俺が動きますから。あ……はは……あー……入っちゃった。すごい、あっつい……ほらあ、やっぱり、まだ出し足りないんでしょ? ねえ、このなかに、いっぱい……ね? ふふ……ふふふふふ」
「や、めろ……っ!」
たまらずその場から駆け出していた。
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