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鷹取光輝01

 瓶を翳すと、心底安堵したような表情になった。それは光輝が想像していた以上のリアクションだった。そんなに大事なものだったのか。  でも……だからこそ……ちょっと、ぎゃふんと言わせてやりたくなった。  蓋をあけ、中身をぶちまける。 「何をなさるんですか……!」  散らばっていく錠剤を、必死に拾い集めようとする早坂。伸ばした手の先にあった錠剤……それを思いきり、踏みつけてやった。 「なくたって別にかまわないだろ」 「坊ちゃん、何を……」 「こんなものに頼らなくたってあんたは別に平気なんだろ」 「こ、困ります……これがないと……仕事にならな……」 「別にあんた、普段からたいした仕事してないじゃないか。発情期じゃなくたってボーッとしてて使いもんにならねえくせに」 「本当に、駄目なんです。皆さんにも、ご迷惑をおかけしてしまいます、から……。坊ちゃんは……オメガが、その……『あの』とき、どうなってしまうのかご存じないから……」  ……皆さんにも? ご迷惑? 『あの』とき?  早坂の発する言葉のいちいちが勘に障った。まだ誤魔化せると思っているのか。 「ああそうだな確かに、発情したオメガがどんな風になるのか知らなかった。……あんたが父さんを襲ってる姿を見るまではな!」  転がっていった錠剤が、排水溝に落ちた。早坂はもう、拾おうとはしなかった。  正直、もっと動揺するかと思った。最強のカードを切ったつもりだった。でも早坂の目は、しんとしていた。 「アルファのちんぽがあればこんな薬、なくたってかまわないんだろ。……ああ、でも残念だったな、父さんが帰ってくるのは来週だもんな。今回の発情期には間に合わないか。でもアルファのちんぽなら何だっていいんだろ。そう……別に……父さんじゃなくたっていいじゃないか。何も父さんじゃなくたって……アルファなら他にいくらだっているじゃないか……!」  言い捨て、踵を返した。  何故だか早坂がどんな表情をしているのか、確認するのが怖かった。  その日は夕食になっても、早坂はリビングに姿を現さなかった。料理を作りに来てくれている家政婦さんが、いつもは鬱陶しいくらい話しかけてくるのに、そのときは何故か言葉少なにやるべきことだけをやって帰っていった。  深夜、早坂の部屋の前を通りかかると、明かりがまだついていた。無意識のうちに息を殺して耳をそばだてていた。どうしてそんなことをしてしまったのか分からない。嫌悪していたはずなのに。目にするのも声を聞くのも同じ空気を吸うのも嫌だったはずなのに。  鍵は、かかっていなかった。  そっとドアをあけて、覗き見た。  尻の穴の中に、指が三本入っていた。  つーか、尻の穴ってあんなに拡がるんだ……  一点だけを凝視していると、いやらしい光景であるということを忘れそうになる。出し入れされる指が、ぬらぬらと光っている。よく見ると手首を伝って、ぽた、ぽた、と、何か、垂れ落ちている。  ペニスは勃起していたが、普通より小さく見えた。ちっちゃな……雄としての機能を失ったそれが必死に反り返っているさまは、健気にも、滑稽にも見えた。まるでおまけのようなそれには目もくれず、早坂は右手で尻の穴を弄り続けている。手の動きはだんだん速く、激しくなり、ぱちゅぱちゅと飛沫まで上がっている。  はあ、と息を吐くと早坂は、おもむろに左手を、今度は胸に伸ばし始めた。親指と人差し指で乳首をつまむと、ありえないくらい強く引っ張っている。「んんっ」と、耐えきれなかったのか、声が漏れた。そこから声は大きくなる一方だった。 「あっ、んっ、んっ、んあああっ」  誰かに……光輝に……聞かれてるかもしれない、なんて微塵も思っちゃいない声。太ももががくがく震えている。ほんの少しの刺激でも感じてしまう……といった風ではない。必死で快感をたぐり寄せようとしている動きだった。もはや何が快感なのかすらも、分からなくなっているような。そうまでして……そんなになっても……  抑えられないものなのか、発情、ってやつは。  死にたくなるな。  ぽつん、と思った。

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