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鷹取光輝02

 仲のいい友人のひとりが性別検査を受け、アルファと判明したらしい。  友人は友人で変わらないはずなのに、それを聞いたときから勝手にオーラのようなものを意識してしまって、今までどおり接することができなくなってしまった。彼は「光輝も早く検査、受けたらいいのに」と軽く言った。光輝もアルファと信じて疑わない口ぶりだった。そう信じてくれるのは嬉しかったけれど、やっぱりいざとなると躊躇いが生じてしまう。彼はよっぽど、自分がアルファだという確信があったんだろうか。  男女の他にあるもうひとつの性別、アルファ、オメガ、ベータ。それが判明するのは思春期頃。でもちゃんと性別検査をしているひとは、意外と少ない。社会的地位が高いアルファはともかく、オメガと確定させてしまうことにほとんどメリットがないからだ。抑制剤が効いて日常生活に支障がないなら、ベータとしてふるまう。そういうオメガがほとんどだろう。そのせいか年々、オメガの人口は減っている。それでもあえて性別検査を受けるオメガは、『つがい』となるアルファがいるか、オメガに支給される補助金を目当てにしているか……  そういえば……  早坂には、つがいとなってくれるアルファは現れなかったんだろうか。  つがいがいるオメガの首筋には、アルファの噛み跡があるはずだが、早坂の首筋はきれいなものだ。きれいで……だからこそアルファを誘う色気を抑えられない。  つがいになれば、つがいのアルファ以外に発情しなくなるし、発情具合もだいぶ楽になると聞く。とっととつがってくれる相手を見つけりゃいいのに。でもあの歳になったらもう、相手にしてくれるアルファなんていないか。父くらい……。だから……だから父は早坂に協力してやっているのか。そういえば父にも、つがいとなっているオメガはいない。つがいのいない、アルファとオメガ同士……  おぞましい想像をしてしまって、思わずぶるり、と身震いした。  嫌だ。嫌だ嫌だそんなの、気持ち悪い。  まさか早坂は、父のつがいになることを企んでいたりはしないだろうか。いや、それならとっととつがいになっているか。十年以上、傍にいるんだから。そんなに長い間一緒にいたら流石に、『運命』かどうか分かるだろう。相手がつがいかどうかは、本能的に分かるものらしいから。  じゃあ逆に父は……父には今までそういう相手は現れなかったんだろうか。まあ別に、オメガと違ってアルファは、つがいなんていなくても不自由はしない。つがいとなったオメガとの行為は格別らしいけど、そんな肉欲のためだけにひとりの人間の一生を背負わなきゃならないなんて、割に合わない。オメガの間では、つがいを見つけたオメガは羨望の対象らしいけど、アルファの間では、つがいのことなんて話題にすら上らない。  一度早坂に、何でうちで働くことになったのか訊いたことがある。早坂は「旦那さまがとても理解のある方でしたから」と何故か少し、誇らしそうに言った。その『理解』に含まれているものを想像すると、ぞっとした。 「手っ取り早く性欲解消できて最高の職場?」  煽るように言ってやったが、早坂は表情ひとつ変えず、こともあろうか、「ええ、そうですね」と言った。言いやがった。浮気相手の女が正妻に糾弾されて、狼狽えるどころか逆に、あのひとに本当に愛されているのは私だと胸を張るみたいだった。 「薬では抑えきれないこともあって……。そんなときはやっぱり……どうしても、アルファの方を頼らざるを得ませんから」 「は……あんたさあ、自分が何言ってんのか分かってる? しかも……しかもよく俺に向かってそんなことが言えるよな。『あんたの親父とやりまくってます』って、息子に対して堂々と言う? 普通」 「不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。でも決して、坊ちゃんが想像されているような、愛ある行為じゃありませんので」  尚のこと悪いわ。……いやいや、愛し合ってます、運命のつがいです、一生一緒にいたいです、ってのぼせ上がられても困るけど。ああ混乱する。どんな言葉を早坂から引き出したかったのか、どんな態度を取らせたかったのか、分からなくなってきた。

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