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鷹取光輝02

 高三を前に性別検査を受ける奴が徐々に増えてきた、と思う。アルファ認定されたら推薦も楽に取れるからだ。  アルファは人口の約三パーセントほど、と言われているが、四十人のクラスにもう既に五人いる。やはりハイソな奴らが集まっているからか。遺伝にカネは関係ないはずだが、アルファをカネで買ってる奴もいるんじゃないかと、まことしやかに囁かれている。そんなことをしたって本人の能力がついていかずに苦労するだけだと思うけど、それでも『血統』を守らなくちゃならない家柄というのはあるんだろう。鷹取家なんて足元にも及ばないくらいのすごい家柄、なら。 「性別検査、受けなくていいのかな」とそれとなく父に訊いてみたが、また、「まだ早いんじゃないか」とやんわり突き返されてしまった。  まだ早い、そのうち、大人になったら……  でも光輝が二十歳になっても、父は大人になったと認めてくれない気がする。父にとって光輝はいつまで経っても小さな子ども、で、父の目の届く範囲でしか行動していないと思っているんだろう。  知っているのに。  鍵をかけていれば大丈夫だと思っていた? どうして大丈夫だと思えるんだろう。知っているんだよ、聞いたんだから、この耳で、俺は……  でも言ってしまえば父を困らせることになる。それは嫌だ。一人前と認めてほしい、何でも話してほしい……でも、一人前だと認めてくれとわめくのは、一人前のすることじゃない。それくらいの分別はある。 「もしかして、アルファ認定されて受験を楽しよう、とか思ってないか」  父の指摘はまったく的外れだった。でも変に詮索されるよりは、乗っかっておく方が楽かと思った。「あ、バレた?」 「そんなことを考えているってことは、アルファじゃないな」 「分かってるよ」  分かってる、確かに。自分の身体のことだ。数値化なんてしてもらわなくたって、大体のことは検討がつく。幸い学校では勉強も運動もデキる奴、というポジションにいるけれど、それはそれなりに努力しているからだ。中にはまったく努力せず『そこそこ』にいる奴もいて、そういう奴が本気を出せばあっという間に抜かれてしまう予感はしていた。十中八九、光輝はアルファではない。それでも性別検査を受けたいと思うのは……きっと、はっきりさせたいからだ。  境遇も、進路も、性別も、父との関係も、早坂との関係も、何だか全部宙ぶらりん。何ひとつとして、確固たるものがない。幸福だ、とも、不幸だ、とも言い切ることができない。進路が決まればすっきりするんだろうか。二十歳になればすっきりするんだろうか。早坂がいなくなればすっきりするんだろうか。  アルファじゃなくてもいい。本当は父のようなアルファになりたかったけれど、そこまで高望みはしていない。せめてオメガじゃないということが、はっきりすればいい。ベータとして。アルファ並みに優秀なベータ、として生きる。性別が決まれば、その覚悟も決まりそうな気がする。 「そういう父さんはいつ検査、受けたんだよ」 「いつ、いつ……んー……中学に上がる前くらいかな」 「何だよ、ずいぶん早いじゃん」 「私が学生の頃はまだ、性別検査を受けるのがほとんど義務みたいだったから。早ければ早いほど進路を決めやすくていいからって」 「ふーん」 「正直、いきなり、お前はアルファだ、って言われてもピンと来なくて。周りはずいぶん騒いでいたようだけど」 「それまで分かんなかったの? 本当に? やっべ、俺、ひとより能力あるかもしんねえ、とか」  オメガにムラムラするかもしんねえ……とは、流石に訊けなかった。

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