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鷹取光輝02
ほんの少ししか入れていなかったはずなのに、気づけばてのひらがぴったり、尻にくっついて……指が、根元までずっぽり穴の中まで埋まっている。ゆっくり動かす。ナカは熱すぎて、濡れすぎていて、正直感覚は分からなかったけれど、ずぷずぷという音が気持ちよくて、一心不乱に指を動かしてしまっていた。もっと、もっと、と、求めてしまう。二本、三本、と、指が勝手に増えていく。もう少しで何か、得られそうな感じがする。何か、何か……。手繰り寄せた先に何が待っているのかも分からないのに、好奇心を抑えられない。カーペットをよごしてしまうのも、もう、どうでもよくなっていた。
何の気なしに視線を下にやったとき、勃起したちんこが目に入った。ぎょっとするほど張りつめたそれが、天を向いて震えている。嘘だ、こんなの。身体は興奮を訴えているのに、頭は拒否している。全身を駆け巡っている熱風のようなもの……これは、快感か。でもこんな、さわってもいないのにこんなことになるなんて、今までなかったのに……こんな……これじゃあまるで……
オメガみたいじゃないか。
コンコン、とそのとき唐突にノックの音がした。「坊ちゃん」と呼ぶ声。やばい、早坂……
鍵に手を伸ばしたときにはもう、遅かった。ドアノブが動くのが、やたらゆっくりに見えた。ドアが……ひらく……廊下の明かりが部屋の中を照らし出す……ドアが……ひらいて……見下ろす早坂と、目が合った。
「坊ちゃん……?」
部屋の中が暗いせいか、早坂はまだ状況を分かっていないようだった。
「起きておられたんですか? どうしてそんなところで……」
電気のスイッチに手を伸ばそうとしているのが分かって……
「つけるな!」
思わず叫んでいた。
「でも……」
「つけるな! つけたら殺す!」
心臓がどくんどくんと喧しい。叫んだせい? いや、違う……
こめかみを汗が伝う。冷たい、汗。それにすら、ぞくぞくする。ときに大きく、ときに小さく、いつ打ち寄せるか分からない快感の波に、引きずられないよう踏ん張るのに必死だった。
次第に、何のために抗っているのか分からなくなってくる。……いいんじゃないか……別に……無理して抗わなくても……こんなにつらい思いをしなくても……だって何のために……あれ……何でそんなに、頑張っていたんだっけ……何で……いや、駄目だ……駄目だ駄目だ、こんな姿、絶対見られちゃ駄目だ。絶対。
「何しに来たんだよ! 出てけ!」
「でも……坊ちゃん……お身体の具合が……」
「何でもない!」
「でも……」
「何でもないっつってんだろ!」
それなのに早坂はぼーっと突っ立ったままだ。何だ。何だこいつ。
最悪だ。
よりによって何でこいつなんかに見つかってしまったんだろう。
「ちょっと立ちくらみ……した、だけだから。お前……大袈裟、だから、本当、嫌なんだよ。早く出てけよ! お前、の、顔見てるだけで……気分、悪くなってくる……」
出てけ。
出てけ、早く、出ていってくれ、頼むから……!
罵りながら、でも、目は、懇願するようになっていたと思う。それなのに早坂はぐずぐず、「でも、でも……」と繰り返している。でも……じゃ、ねえんだよ、この馬鹿! 空気読めよ! いつもは何も見ちゃいないくせに。ついていてもまったく役に立たない目ん玉してやがるくせに。そんな目で見るな。
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