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鷹取光輝02
パンッ、と手を叩かれた。普段ならどうってことなかったであろう衝撃を、持ちこたえることができなかった。カッターが床に落ちる。
「な、にすんだよ……っ!」
拾い上げようとしたところを、後ろから抱え込まれる。思っていた以上の力だった。いや……今自分が弱っているから、だから強く感じるだけなのかは分からない。
「はな、せ……っ、俺が……俺が、せっかく、ひとりで……な、んとかしようとしてんだから……っ、邪魔、すんじゃねー……」
「駄目です」
腕の力と同じに、声にも、普段の早坂らしからぬ力があった。
何だよ、早坂のくせに……
「坊ちゃん、少しだけ、すみません」
聞き返す間もなかった。そう、低く呟いたかと思うと早坂は、何をするかと思いきや光輝の鼻をつまんできた。
「んっ……んんーっ」
反射的にあけてしまった口に錠剤と水を流し込まれる。今までにない俊敏さで口をふさがれてしまい、もう、吐き出すこともできなかった。まばたきした瞬間、目尻を冷たいものが伝った。苦しいせいだ。こんな、無理矢理されて、苦しいせいだ。
「うっ……う、うう……うう……っ」
ごくん、と喉が鳴ったのを確認して、早坂がようやく手を放す。「すみません、乱暴なことをしてしまって、でも……」
「いい……」
「坊ちゃん……」
「もう、いい、っつってんだろ……」
「すみません……」
何だよ、今さらそんなしおらしくしたって遅いんだよ。これだからこいつは、こいつは……
暴れ、喚いた反動が来たのか、がくんと力が抜ける。
薄れゆく意識の中で……
ああ、早坂のズボンが濡れている……と、何故かそんなことを思った。
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