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鷹取光輝03
カラカラになった心は、簡単に砕ける。
ひくひく、と、後ろの穴が痙攣している。服はもう、まったく役に立たなくなっている。こぼれてくるものを受け止めるつもりで後ろに手をやった……つもりだった。でも、ぐっと、指が穴の中にめりこんでいく。身体は心を裏切る。でも身体ですら、身体を裏切る。アナルが、右手が、嬌声を絞り出す喉が、ひとつの人間のものとは思えない。あちこちから寄せ集められ……いや、乗っ取られたみたいだ。
指は、簡単に根元まで入った。あまりにすんなり入ったものだから、自分の指が急に短くなってしまったのかと疑ったくらいだ。
少し動かすだけで、ぐちゃり、と、粘着性のある音が響き渡る。ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ……
ああ……どうしよう……
どうしよう、気持ちいい、どうなってしまうんだろう、気持ちいい……
人目も憚らず破廉恥な行為に及ぶオメガのことが信じられなかった。でも……今なら分かる。何も好き好んで、快楽に溺れたかったわけじゃない。恥知らずな淫乱なんかじゃない。アルファを食い物にしているわけでもない。そうするしか……ないからだ。快楽で苦痛をかき消すしかないからだ。気持ちよさですべてを誤魔化して、忘れてしまうしかないからだ。尊厳と引き換えにしてまでも、和らげたいほどの苦痛。
「ふっ……う……っく……」
身体を動かすたび、声が漏れる。気づいてしまった。声を出せば出すほど、快感は強まる。苦痛は遠ざかる。さらに遠ざけるように、足をばたつかせる。身体を跳ねさせる。
「あ……はぁっ……も……っと、もっと、ほ、し……っ」
でも強すぎる快感に、びびってなかなか思いきることができない。自分でやるとどうしても加減してしまう。パンパンに張りつめた前をそのままにしておくのもつらくなってきて、左手で後ろを弄りながら、右手で前を弄る。とりあえず射精すれば少しは楽になるかもしれない。
いつもどおりやっているはずだった。先走りはだらだら流れて、もうちょっと扱けばイけそうだ。でも感じる快感は、ぼんやりしていた。手じゃ物足りない。でもたとえオナホでも、電マを押し当てられたとしても、求めているものからは程遠い感じがした。直接ふれているはずなのに、感覚がにぶい。まるでここは性感帯じゃないのだと押し返されているようで、ぞっとする。もうお前にこんなものは必要ないだろ、と……
それでもかろうじて射精はできた。気持ちよさは感じられたけれど、足元で揺れているだけの大縄をぴょん、と、飛び越えたくらいのものだった。快感はすぐに、また別の疼きに飲み込まれる。
ただ入れていただけの指を、ゆっくりと動かしていく。動かしてすぐに、刺激を欲しがっている一点があることに気づいた。じくじくとそこだけが疼いている。刺激が欲しい。気持ちよくなりたい。スッとなぞるだけで、息が止まりそうなくらいに、ぞくぞくした。こんなの自分ひとりでなんてとても続けていられない。また、簡単に前が勃ち上がる。でもペニスはあくまで、アナルのおまけに成り下がっている。
「あ、あ、あ……」
口を閉じることができない。飲み込みきれなかった唾液が口の端からこぼれていく。顎を、首筋を、胸を伝ったそれが、乳首を光らせる。その感触に、ぞくりとした。ぞくり……いや、違う、これは、確かに、快感だ。垂れた唾液を、ぐりぐり、と乳首に塗りつけるようにする。すぐに乾いてしまったので、指をしゃぶって濡らす。濡れたところがすうすうして気持ちいい。気持ちいい。乳首が、気持ちいい。こんなところ、今まで弄ったことなんてなかった。ああ……嫌だ。自分が今どんな格好をしているのか……考えるな……冷静になってしまうのが恐ろしい。
ナカに入れっぱなしの指は、すっかりふやけてしまった。不自然な体勢を取っていたせいで、身体が痛い。力が入らない。でもちょっと動きを止めると、疼きはあっという間に身体の中で渋滞を起こす。早く、早く解放させないと、でも……
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