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鷹取晃人01
彼と対角線上の場所に座る。彼はずっと下を向いて、何か、手元で操作している。ピコピコ、という電子音。ゲームでもやっているのか。乱雑に置いた鞄から、これまたわざと大きな動作で問題集とノートを取り出してみたけれど、それでも彼は微動だにしない。眼球だけが忙しなく動いている。意地になって宿題を始めてみる。でもやっぱり、ピコピコいう音に集中できない。ちっちゃい子たちのはしゃぐ声とか、犬の鳴き声とかはまったく気にならないのに、どうやってもそれは耳についた。重いからと、CDプレーヤーを置いてきてしまったことを後悔した。
そのうち終わるだろう。そのうち飽きるか、ゲームオーバーするかして終わるだろう……でも十分……二十分経っても終わる気配がない。単調な電子音が、同じリズムでずっと続いている。一体いつになったらやめるのか……
何度か、声をかけようと思った。ちょっと音量を落としてくれないか、とか、そんなずっとやってて飽きないのか、とか……
ゲームの画面を見つめる彼を、じっと見つめる。普通のひとだったら……どんなににぶくても流石に視線に気づいている頃だろう。
早く立ち去ってほしかった。いつもの環境を取り戻したかった。でも気づけばそんな彼のことを面白がって見てしまっていた。一体いつになったら顔を上げるのか。それこそゲームを楽しむような気持ちで。
もういっそ、ずっと気づかなくていい……
けれど、終わりは突然訪れた。軽快だった電子音にジジ……とノイズが混じり始めたと思った途端、ぷつん、と音が消えた。
公園の喧噪に比べたらそれは小さな音だったけれど、急にあたりが静かになったように感じられた。彼が顔を上げる。目と目が合った。いざとなると、何を言っていいのか分からなくなった。
「電池、切れちゃった」
それが彼の第一声だった。
「そんなに面白いの?」
「これ?」
「うん、何?」
「テトリス」
ひろげた手の中にあったのは、キーホルダー型のゲーム機だった。
「面白いというか、行けるところまで行こうと思って。一〇〇ステ行ったら終わるかと思ったけど、延々終わらない」
「よく続くな」
「簡単だよ」
難易度のことじゃない。その集中力について言いたかったのだけど、彼はけろりとしていた。
「やってみる?」
とこちらに渡しかけて、あ、電池なかったんだ、と、引っ込めている。何だか間合いというか、空気感が変な奴だな、というのが第一印象だった。というかどうしてこんなところでひとり、テトリスなんて……
でもそれは自分も同じだったと思い直す。向こうにしたらこっちも不審人物だろう。
その日は名前を聞くこともなく別れた。
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