44 / 133
鷹取晃人01
「いつもあんな感じなの?」
冷蔵庫に入れるのを手伝いながらこっそり訊ねる。そうこうしている間にも、バタンバタンと玄関のドアがひらいたり閉じたりして、どうやら他のきょうだいたちが帰ってくる時間帯と重なってしまったらしい。
「うるさくてごめん」
「いや……何か新鮮、っていうか。楽しそうでいいな」
「それ本気で言ってる?」
「本気だよ!」
自分でも思いがけず強い口調になった。
「母さんとふたりで暮らしてた頃もそうだったけど、今はもっと……家ん中広……静かすぎて。ときどき静かなのが逆にうるさくて、『わー』って意味もなく声上げたりするもん。声の出し方忘れそうで」
「何それ」
修哉がくすりと笑ったとき、
「あー、修哉、買い物行ってきてくれた? って……あら、お友だち?」
台所と廊下の間に吊された珠のれんをかき分けてやって来たのは、修哉の母親だった。それまで他のきょうだいたちに見事にスルーされていたものだから、声をかけられてほっとすると同時に、緊張もした。今さらながら、勝手に上がり込んでしまってよかったのだろうか。
「うん、そう」
「へえ……」
見たことない顔ね、と思われているのが分かる。制服も違うし……
「鷹取晃人くん。最近近くに越してきて、知り合ったんだよ」
「近く……あらそう。何番地なの?」
「えっと……」
しかし幸い、「自転車のタイヤパンクしちゃって。それで荷物運ぶの手伝ってくれたんだ」と修哉が続けてくれたおかげで、それ以上追及されずにすんだ。
「えっ、そうだったの? そんな、わざわざ……ごめんなさいね」
修哉の母は、そう申し訳なさそうに声を落とした次の瞬間、「こらあんたたちっ! いつまで騒いでんの!」と、正反対のトーンで下の子たちを叱りつけている。かと思いきやまた次の瞬間、「晃人くんごめんなさいね。せっかく来てもらったのに……」と、マダムのトーンに戻っている。
「そういえば修哉、おやつはもう食べたの? 晃人くんにもあがってもらいなさい」
「つってもポテチと……」
「そんなジャンキーなもの……。ほらあれがあるじゃない、お歳暮にもらったカステラ」
「それいつのだよ」
「冷凍してるから大丈夫よ」
「冷凍っ? そんなの冷凍して大丈夫なの」
「大丈夫よ。レンジでチンしたら復活するから。下手に常温保存してパサパサになるよりずっといいのよ。お母さん何回もやってるもの。高級なやつなんだから長く味わいたいじゃない」
「わーっ、出さなくていいから! 超恥ずかしいから超やめて。そんなん晃人に食べさせられないだろ」
「えー……そうねえ、だったらクッキーにする?」
「うんまだそっちの方がマシ」
「あ、リンゴあったわよ、リンゴ。クッキーだけじゃたりないでしょ」
「ああもう何でもいいから!」
もう帰ります、と口を挟む間もなく、「晃人はこっち」と背中を押されてしまう。流されてしまった……と思いながら、でも、修哉がそうやって母親と言い合っている場面を見られたのは嬉しかった。そうか、家族といるときはこんな表情をするのか……
襖をあけた中に誘導される。失礼ながら一瞬物置のように見えて、本当にここでいいのかと疑ってしまった。でもちゃんと勉強机と、奥には丸まった布団が見える。一応ここ、は……部屋、のようらしい。修哉……の、部屋なんだろうか。じろじろ見ちゃいけないとは思うものの、ついつい目を動かしてしまう。机の上に見慣れたテトリスがあるのが、何だか変な感じがした。
ともだちにシェアしよう!