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鷹取晃人02

 それから頻繁に、修哉の家を訪れるようになった。  母親がいるときはちょっと気まずかったけれど、他のきょうだいたちは、晃人がいてもいなくても何も変わらない……本当にきょうだいのような扱いで、それがとても心地よかった。他のきょうだいたちの友だちもたくさん来ていたので、区別がつかなくなっていたのかもしれない。悪く言えば溜まり場……。でもそんな不健全な空気はなかった。狭くて、陽があまり差さなくて、空気の通りは悪かったのに、正反対の開放感があった。  自分の家みたいに思ってくれていいと修哉は言ってくれたけど、手ぶらで行くのは申し訳なくて、ちょこちょこ差し入れをしていたら、妹たちからえらく懐かれた。 「女ってゲンキンだよな」  修哉の、妹たちに対する評価はときどき容赦がなかった。 「何か、餌付けしてるみたいになってる?」 「違うよ。女はイケメンに弱いんだよ」 「イケメン……」  実際、妹たちがどう思っているのかは分からないが、少なくとも修哉は晃人のことをそう思っているのか、と思うと、急にそわそわと落ち着かない気持ちになった。修哉自身は、発した言葉の意味についてさほど深く考えていないようだったけれど。  修哉がトイレに行っている間、手持ち無沙汰だったのでひとりでテトリスをやっていると、妹がひょっこり、顔を覗かせた。確か修哉のふたつ下……五年生だったはずで…… 「えっと……孝子(こうこ)ちゃん?」  名前を呼ぶと、ぱっと嬉しそうな顔をした。そして「お兄ちゃんいないんだ」と呟くと、すすっと晃人の傍に寄ってきた。上目遣いに見上げられて、不覚にもどきりとしてしまった。よく見るとやっぱりきょうだいだ。修哉に似てる……修哉が女になったらこんな感じなんだろうか……って、何考えてんだ。 「わたしねえ、ずっと気になってたんだけど……」  彼女は晃人の耳元に顔を寄せると、囁いた。とびっきりの秘密を共有するみたいに。 「……お兄ちゃんって、アルファでしょ?」 「え……」  どうして知っているんだろう。彼女は意味ありげに、「ふふ」と笑った。  どうして知って……いや、別に知られてまずいことじゃない。知られても問題……ないけれど、でも、どうして……。修哉にも言っていなかったのに。  口に出して肯定したわけじゃないけれど、晃人の態度を見て『正解』だと、彼女が早々に悟ったのが分かった。 「やっぱり、そうなんだ。すごぉい。なかなか周りにアルファのひとっていないから吃驚。一体どうして修哉兄ちゃんなんかと知り合いになったの? いや修哉兄ちゃんグッジョブって感じだけど」 「そんな……アルファだからって、皆が皆、すごいわけじゃないよ」 「何言ってんの。アルファってだけで十分すごいじゃない。うち、ベータばっかりだから、超ふつーって感じで超つまんないもん。……ま、だからってオメガになっても困るけどね」 「孝子ちゃんはどうしてその……分かったの?」 「その制服って、超エリート校のでしょ」 「エリート……ってわけじゃないよ」 「アルファしか行けないって聞いたことあるもん」 「そんなことないよ」 「でもそれだけじゃない。お兄ちゃん何となく、オーラがあるもん」 「オーラ、って……」 「意外と馬鹿にできないんだよ、そういう第六感、って」  そのとき丁度、修哉が戻ってくる気配がした。彼女は意味ありげに笑うと、修哉と入れ違いに出て行った。今の会話……聞かれていただろうか。しまった、彼女に口止めしておくんだった。いや、そんなことをしたって無駄か。なら先に自分から言っておくべきか。でも、何て……? 俺実はアルファなんだ、って……? そんなのマヌケ過ぎるだろ。訊かれたら別として……  でも修哉が、そんなこと訊いてくるはずもなかった。

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