49 / 133
鷹取晃人02
修哉がようやく顔を上げた。
何かを言おうとして、でもうまく言葉にできないもどかしさが伝わってきて、それをふりはらうことができるのは自分しかいないと思った。
「それに……俺、の、母親もオメガだから」
「えっ」
「だからそのオメガのことはよく分かるよ。全然、普通だよ。月に数日寝込んじゃうことがあるくらいで」
……でもそのときは本当の意味で、オメガのことを分かっていたわけじゃなかった。
「そう……だったんだ、ごめん、俺、無神経なこと言った……」
「ううん。しようがないよ。身近にそういうひとがいなかったら当然だよ。俺は……だから、どうして皆がそんなに、オメガのことを馬鹿にするのか分からない」
修哉の、縋るようなまなざしを感じる。自分は何だかとてもいいことを言ったんじゃないか。今までこんな目で見られたことがなかったから、興奮していた。もっと、と、欲が出てしまった。
「……有り難う、晃人」
「母さんにも聞いとくよ。薬とかさ、何かいろいろあるみたいなんだよね」
「うん」
「でもさ、不幸中の幸いっていうかさ、まだ女の子でよかったんじゃない?」
「それって、どういう……」
「母さん言ってたことあるよ。私はまだ女の子だったから生きられる手段があった、って。女の子だったらアルファとつがいにもなってもらいやすいし……。それに比べて男のオメガは大変なんだって。働けなくなっちゃったりするから、自殺しちゃうオメガも男の方が多いんだって」
そのとき修哉がどんな顔をしていたのか……今となってはもう、思い出せない。
ともだちにシェアしよう!