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鷹取晃人02

 修哉がようやく顔を上げた。  何かを言おうとして、でもうまく言葉にできないもどかしさが伝わってきて、それをふりはらうことができるのは自分しかいないと思った。 「それに……俺、の、母親もオメガだから」 「えっ」 「だからそのオメガのことはよく分かるよ。全然、普通だよ。月に数日寝込んじゃうことがあるくらいで」  ……でもそのときは本当の意味で、オメガのことを分かっていたわけじゃなかった。 「そう……だったんだ、ごめん、俺、無神経なこと言った……」 「ううん。しようがないよ。身近にそういうひとがいなかったら当然だよ。俺は……だから、どうして皆がそんなに、オメガのことを馬鹿にするのか分からない」  修哉の、縋るようなまなざしを感じる。自分は何だかとてもいいことを言ったんじゃないか。今までこんな目で見られたことがなかったから、興奮していた。もっと、と、欲が出てしまった。 「……有り難う、晃人」 「母さんにも聞いとくよ。薬とかさ、何かいろいろあるみたいなんだよね」 「うん」 「でもさ、不幸中の幸いっていうかさ、まだ女の子でよかったんじゃない?」 「それって、どういう……」 「母さん言ってたことあるよ。私はまだ女の子だったから生きられる手段があった、って。女の子だったらアルファとつがいにもなってもらいやすいし……。それに比べて男のオメガは大変なんだって。働けなくなっちゃったりするから、自殺しちゃうオメガも男の方が多いんだって」  そのとき修哉がどんな顔をしていたのか……今となってはもう、思い出せない。

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