53 / 133

鷹取晃人02

 どこから……何をどう、整理していけばよいのか分からなかった。  何も身につけていない下半身か。カーペットにできた染みか。生気を失った瞳か。赤い筋が無数に走っている左腕か。右手に握られたカッターナイフか。 「しゅ、うや……」  おそるおそる近づく。感情が読めない目だったけれど、近づいていくと、ちゃんと自分のことを認識してくれている、と分かり、ひとまずほっとする。目を合わせたまま、カッターナイフを握っている彼の右手を、慎重に両手で包み込むようにする。カッターナイフの刃は出たままだ。そんなに力が入っているようには見えないのに、なかなか指がひらかない。つっ、と、反対の腕を、血が流れたのが見えた。 「修哉、とりあえず……座ろう?」  両肩をつかんで促すと、修哉はゆっくり膝を折った。でも下は盛大に濡れていて、いけない、と慌てて違う場所に誘導する。かろうじて濡れていないタオルを探して、修哉の腰の下に宛がう。でも宛がったそばから、タオルがじんわり、水分を吸って重くなっていっているのが分かる。修哉の股を濡らしている液体と、床を濡らしている液体とが同じものだと……いや、修哉から流れ出たものだということが、なかなか結びつかなかった。 「……す、けて」  消え入りそうな声だった。 「たすけて」  赤い頬、濡れた唇、潤んだ瞳、上下する肩……  座っているのもつらいのか、すぐに横に倒れてしまう。けれど晃人の腕をつかむ力は、異様に強い。 「たすけて、晃人」  その声を聞いた途端、ぎゅうっ、と心臓をつかまれたような感覚がした。  助けなければ。修哉を。そうだ、助けられるのは自分しかいない……  どくん、どくん、と脈打つ鼓動。  扇情的なまなざしでも、興奮を表している性器でもなく、火をつけたのは、「たすけて」という言葉だった。 「どう……したらいい……?」  修哉は首根っこにぎゅう、としがみついてきた。目が合ったのは一瞬で。そこからは目でなく、唇で語り合った。キスなんてするのは初めてだった。恥ずかしくてくらくらする。でも、はっと我に返りそうなところで、そんなのいいじゃないか、という風に修哉が舌を絡めてくる。ふれられたところからじわじわ、理性が焼き切れていく。せつない吐息が漏れる。修哉も初めてなんだろうか。だったらいいのに。修哉に覆い被さる。いや、ゆっくり引き倒されていく。 「ふっ……うっ、んっ、ん、ふっ……」  気持ちよくてとろけそうで。このまま延々キスし続けていられそうだった。吸っても吸っても、次から次へと甘い蜜が溢れてくる。しつこいくらい舌を絡めてもまだ、絡められていない部分があるような気がする。  もぞ、と修哉が腰を動かしたのが分かってはじめて、舌以外の自分の動きが止まっていたことに気づかされた。ようやく唇を離すと、未練がましさを表すように唾液の糸が引いた。  どうしたらいいか。  何も知らなかったはずなのに、知っているみたいに身体が動いた。 「たす、けて……あ、きと……お、れ……もう、もう……何、やっても、駄目で……もう、自分じゃ、なくなりそうで怖い……っ」  ちょっとでも離れると、不安でたまらない、という風に手を伸ばしてくる。 「分かった……分かったから」 「たすけてぇ……」  抱いてほしいとか、奥を突いてほしいとか、アルファのちんこが欲しいとか……そんな風に言われていたら、逆にスッと頭が冷えていたかもしれない。助けて、と言われたからペニスに手を伸ばすことができた。助けて、と言われたから、脚を抱え上げて、未知の場所にふれて、恥ずかしい格好をして、誰にも教わったことのない行為をすることができた。  前戯なんて知らなかったから、とにかく入れることだけを考えていた。  振り返って思い起こしたら青ざめてしまう、稚拙なセックス。  でもいきなり挿入しても何の問題もないくらい、修哉の後ろはどろどろに溶けていた。 「は……あっ……あ、き……あ……あき、と、が、きてる……っ」 「うん……」 「や、あ……っ、抜かない、で……っ」

ともだちにシェアしよう!