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鷹取晃人03

 気持ちいいから。  だからやりたいんだろうか。  だからずっと傍にいたいんだろうか。求めてほしいと思うんだろうか。修哉じゃなくても……よかったんだろうか。  いや、違う。そんなはずはない、絶対。  たとえあれが苦痛を伴う行為だったとしても、修哉に縋りつかれたら、断らなかった。他のひとだったらどうだったか分からない。修哉だから、受け入れた。すべてを知りたいと思ったし、自分のことも知ってほしいと思った。挿入しなくても、射精しなくても、発情期じゃなくても、抱き合っているだけでも、指先にふれているだけでも、目が合っただけでも、幸せだった。凍えそうな日でも、胸にぶわっとあたたかいものが広がって、指先まで熱くなった。アルファとオメガの間に恋愛感情は成立しないのか。だったらあの感情は何なのか。  そういえば今年に入ってから、発情期のときの修哉とやったことはない。大切なひと、として尊重されたいという気持ちもありつつ、でも、だからこそ本当につらいときには頼ってほしかった。薬でコントロールできているならいいけれど、どうも修哉は、つらければつらいほど、ひとりで何とかしようとするタイプのように見える。 『ごめん、来週からテストだからちょっと会えないかも』  修哉からの着信だと思って慌てて携帯を確認すると、そんな素っ気ないメールで、思わずため息が漏れた。テスト……って、今までそんなこと、気にしたことなかったのに。むしろテスト前ほど頻繁に会って、苦手なところを教えあっていたのに。……  もしかして、と、思う。もしかして『あれ』が来てしまったんじゃないか。だから気を遣って、会わないようにしてるんじゃないか。  一度そう思うと居ても経ってもいられなかった。  家に帰るより先に修哉のアパートに向かう。  すると丁度、修哉もアパートの入口に入ろうとしているところだった。 「しゅう……」  声をかけようとして、あっ、と気づく。修哉の隣に誰か……男が、いる。郵便ポストを確認している修哉の傍に寄り添って。ポストの蓋をあけるなり落ちてしまった郵便物を拾い上げて、修哉に渡してやっている。家族か、と一瞬思った。お兄さんが様子を心配して見に来たんだろうか、と。でもその距離感、空気感は、家族のようには見えなかった。家族だったらあんな風に……修哉の腰に手を回したり、しない。  その、腰に添えられていた手がすっと尻の方に移動したのを見た瞬間、まるで自分の尻を撫でられたみたいにぞっとした。でも修哉は嫌がることなく、むしろさらに身体を密着させているように見える。そして、見てしまった。修哉も同じように、彼の腰に手を回しているのを。  頭を殴られたような衝撃、とは、こういうのを言うんだろうか。  何が起こっているのかまったく理解できなかった。いや、理解しようとするのを頭が拒否していた。  修哉にだって、修哉の世界がある。晃人以外に友だちや、親しくしているひとがいて当然だ。晃人だってもちろん、学校でのこと、家でのこと、すべてを修哉に話しているわけじゃない。秘密にしている、というほどのことでもないけれど、修哉とする話じゃないな、と、言えずじまいになっていることだってある。そんな自分のことを棚に上げて、でも、修哉が晃人に言えない秘密を持っている、ということが、思っていた以上にショックだった。そう、ショックだった。  裏切られた。  テストだから会えない? じゃあ、家にまで上げていたあいつは何なんだ。  修哉の全部を知っているわけじゃない。全部を教えてほしいなんて言う権利は自分にはない。頭では分かっている。でも、心がついていかなかった。

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