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鷹取晃人03

『テスト』が終わった頃合いを見計らって、「会いたい」と連絡すると、すんなり「いいよ」と返ってきた。  部屋に上がるとつい目を走らせて、以前と何か変わったところがないか確認してしまう。変わったところ……『あいつ』の痕跡がないかどうか。  そんな晃人の胸中を知ってか知らずか、修哉はやたら、話を晃人に合わせてきているようにみえた。晃人が、微積で計算間違いしなかった試しがないと言えば、俺もそうだよ、と。漫画雑誌で最近始まった連載が面白くないと言えば、そうだね、確かに面白くないね、と。……  これ以上言葉を交わしていても、何も進まない気がした。  襟をつかんで引き寄せ、キスをした。  セックス、というものを覚えてから、言葉を使うことが煩わしくなった。たぶん、言語能力は小学生より低下している。  初めは応じてくれていた修哉だったが、晃人の様子に違和感を感じたらしく、「ちょ、ちょっと待っ……」と胸を押し返してきた。「どうしたの、急に……」 「別に急じゃない」 「でも……」 「やりたくない?」 「やりたくない……わけじゃないけど……」 「けど?」 「けど、今日はちょっと、その、身体が……」 「発情期じゃないんだろ」 「そうだけど……」 「ならいいよな。……発情期のときは、俺とやりたくないみたいだから」 「えっ……晃人、何言って……ちょっ、そんな、引っ張んな、って、服、破ける……っ」 「じゃあ早く脱げよ」 「晃人、どうしたの、何か変……」  こんな風にいきなり全部脱がせてしまうことなんて、今までなかった。  震えている肩、尖った乳首、必死に手で隠そうとしている局部……すべてがさらされているのに、わきあがってくるものが何もなかった。ただ、肉体がそこにあるだけ。オメガの身体がそこにあるだけ。 「後ろ向けよ」 「えっ」 「早く」 「でもそんな急に……あっ、ちょっ、晃人、駄目……っ、本当に、まだ、準備もできてないからっ……駄目っ、駄目だって!」  固く閉ざしている蕾をこじあけるようにペニスを宛がう。でも、やはり、慣らしていないからなかなかうまくいかない。慣らしていない……というより、自分の方の準備も整っていないからかもしれない。チッと舌打ちをしたとき、 「……アルファって、皆そんな、強引なの」  修哉の呟きが聞こえた。 「何だって」 「何でもないよ」 「何でもないわけないだろ。そんな、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言いやがって。オメガって皆そんな、思わせぶりで女々しいのかよ。お前、本当に心当たりないわけ。俺がこんな風になってる心当たりがさ」 「晃人……」 「誰なんだよ」 「誰、って……」 「俺の誘い断って、会ってた奴、誰なんだよ。この家に入れてた奴、誰なんだよ!」  ふりむいた、修哉の顔色が変わった。 「それは……」 「あのときお前、発情期だったよな。発情期のときは俺とやりたくない……なんて言ってたけれど、本当は別にやりたい奴がいたから、じゃねえの」  修哉は否定しなかった。  あれだけ決定的な現場を見せつけられておきながら、それでもどこかで、否定してくれることを期待していた。見え透いた嘘でもよかった。けれど修哉は否定しない。その馬鹿正直さを恨めしく思った。 「もう、いいよ……」 「もう、いいって……」 「俺、お前のこと、分かんなくなった」  無理矢理裸にして、自分のものにしようとして……でもいざとなったら臆して突き放して……。自分でもひどく、子どもっぽいことをしていると分かっていた。言葉にして伝えようとすると、さらに自分の子どもっぽさが浮き彫りになる。

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