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鷹取晃人03

「何かうまく言えないんだけどさ、俺はこんなすごいひとを知ってるんだ、って、自慢したいような感じ、っていうか。見せびらかしたい、みたいな。こんな……すごいひとが、俺と……って……」  すごいひとになって。立派なひとになって。  そういえばだいぶ昔、母にも同じことを言われた。そのときは何も響かなかったけれど、修哉のためなら、そんな自分になりたい、と、初めて素直に思えた。落ちこぼれだろうが何だろうが、それでも自分はアルファ、だ。自分にしかできないことだってあるはずだ。  その頃丁度、オメガ雇用枠の義務化に関する法律が話題になっていた。義父の会社を継ぐことには一ミリも魅力を感じないけれど、もしかしたらそれが手っ取り早く、修哉と一緒にいられる方法なのかもしれない。修哉が傍で、一緒に働いてくれたら…… 「俺さ……何だか最近、自分のことは本当、どうでもいいんだ」  射精し終えてだいぶ経っても、修哉はまだ晃人の胸に頭を預けて、ぐったりしていた。 「修哉……?」 「こんな身体になってさ、不便だなって思うこともあったけどさ、昔したかったこととか欲しかったものとか、そんなのがまったく、欲しいと思わなくなったんだよね。必死になってさ、あれもこれも、って手を伸ばしてたのが、一体何だったんだろう、ってくらい。本当に、何も……。たいせつなもの、ひとつかふたつ、あれば……それでいいや、って……」  たいせつなもの。  勝手にそれに、自分が含まれているような気がして、どきどきした。  自分のためじゃなく、修哉のために勉強を頑張ろうと思った。できることを頑張ろうと思った。大人になろうと思った。そう思った瞬間、漠然とした不安、が、すうっと軽くなるのを感じていた。

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