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鷹取晃人03

 夏休み明けの模試で初めてC判定が出た。  今までDとかEとかばかりだったから、ちょっと希望が見えたような気がしていたのに、面談ではがつんとやられた。正直、現役じゃ厳しい。じゃあ浪人か。浪人してT大か、現役でK大か……。どっちにしたって義母に嫌味を言われる結果なのには変わりなかった。そもそも浪人したところで合格できる保証もない。K大も、気を抜くとAからBにすぐ落っこちてしまう。どこでもいい。引っかかれば……。引っかかる大学なんて、本当にあるんだろうか。  こんなレベルの低い面談をしているのはきっと自分くらいだろう。他の生徒は合格当たり前、現役合格当たり前。その上で、いかに高い点で合格するか……新入生代表を取れるか……を、競ってるくらいなのだから。  受験した大学、全部落ちるなんて夢を見るのもしょっちゅうだった。  甘っちょろいと言われてもいい。でも、本当は、C判定でも褒めてほしかった。お前にしちゃよくやったと認めてほしかった。  同級生と話すとボロが出そうで、分かったふりをしなくちゃならないことが多くて、ひとりでいることが増えた。任意参加の補講を欠席すると、余裕だな、と言われて、苦笑いで返すしかなかった。  帰り道……何年ぶりだろう、母に電話をかけた。別に禁じられていたわけじゃないけど、鷹取の家に申し訳ない気がして、連絡を取るのを避けていた。中学に入りたての頃、一度、電話をしたら、あなたはもうお母さんの子じゃないのよ、と、やんわり突き放されて、それ以降怖くなってしまったというのもある。  また、拒絶されたらどうしよう……  番号を押す手が何度も止まった。コール音が鳴り響いてからも、いっそつながらなければよいのに、なんて矛盾したことを思ったりした。 『はいはいはい』  数年ぶりに聞く母の声は軽やかだった。晃人から電話がかかってくるなんて、想像すらしていない声。 『もしもし? どちらさまですか?』  しばらく声を出すことができなかった。今からでも電話を切ってしまえばいいんじゃないか……。何で急に電話をしようなんて思ったんだろう。まったく何も、整理がついていなかったのに。 「母さん」  震える声でそれだけ言った。  つながるのが怖かったくせに、もし第一声で分かってもらえなかったらどうしようと、急に不安になった。 『晃人?』 「うん……」 『晃人なの? 本当に?』  分かってもらえた……その瞬間、全身の力がどっと抜けた。 『あら……どうしたの、元気にしてる?』 「うん……」  それはまったく、隔絶された歳月を感じさせない口調だった。 「母さんも……元気?」 『ええまあ、おかげさまでね、相変わらずよ』 「身体は大丈夫なの」 『ええ、最近薬を変えてもらってね、それがうまくきいてるの。ひどいときでも、寝込むようなことはなくなったわ』 「母さんの周期って三十日くらいだっけ」 『うんそうね、三十日いったりいかなかったり……って、一体どうしたの、そんなこと訊いて……』 「いや……その、オメガの友だちがいてさ。いろいろ大変なところもあるみたいだからさ……ちょっと、参考に、って……」  これが六年ぶりにする会話なのか……。でも、だからといって、何が相応しい会話かと訊かれても困ってしまうのだけど。 『そう、お友だちが……。お友だちが、いるのね』 「そりゃあまあ、いるよ」 『小学校からのお友だちと同じ中学に行かせてあげられなくて……酷なことをして、ごめんなさいね』 「それは別に……いつまでも同じってわけにもいかないし……」 『そう……、そっちの学校は楽しい?』 「うん、楽しくやってるよ。……ってあと半年ほどで卒業だけど」 『ああ……そうね……もう高校……』 「三年」 『そうね、三年なのよね。早いわね』  早い……  その感覚がピンと来なかった。今まで生きてきて、一年が早かった、なんて思ったことはなかった。それはたいそう充実していたってことじゃない、と言われるだろうか。違う。一年一年が、重かったからだ。簡単に過ごさせてはくれなかったからだ。 『じゃあ来年はもう大学生なのね』 「大学……うん、そうだね。行ければいいけど」

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