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鷹取晃人03

 頭がいい、というのは分かっていた。いろいろ制約はあるだろうけど、進学だって諦めたわけじゃないんだろうな、というのは分かっていた。オメガというだけで能力を発揮できないなんて勿体ない。修哉のやりたいことができればいいのに。修哉だって活躍してほしい。そう思っていた。思っていた、はずなのに……  どうしてこんな、みっともなく狼狽えているんだろう。  見たことないくらい、いい成績だから? 自分はどんなに頑張ってもCしか出せなかったのに、Aばかり並んでいるから? 志望校がかぶっているから?  いや……心のどこかで、思っていた。  修哉は絶対、自分より上に行くはずがないと……無意識のうちに、思っていた。……オメガ、だから。  修哉が戻ってくる気配がして、慌てて結果表をノートの中に挟み込む。差し出されたグラスには、口をつけることができなかった。 「ごめん……もう、帰る」 「えっ……シャワー、いいの?」 「うん、いいや。ここで時間食ってるわけにいかないから」 「……どうしたの、急に」 「何か目が覚めた……っていうか。悪いな、振り回して……。やっぱ受験終わるまで、会わない方がいいな。やることやらないと……」 「晃人」 「ごめん」  早く立ち去りたかったのに、思った以上に動揺していたみたいで足が縺れた。 「大丈夫? もうちょっと休んでいった方がいいんじゃないの」 「大丈夫、やること思い出したから」 「でも……」 「だから大丈夫だって!」  そんなつもりはなかったのに、払いのけた瞬間、手が当たって、バチンと大きな音がした。それでとうとう、修哉も諦めたようだった。  分かっている。修哉は本当に自分の身体のことを心配してくれている。自分の成績が悪いのは一〇〇パーセント自分のせいだし、修哉の成績がいいのも一〇〇パーセント、修哉自身の努力の賜物だと分かっている。修哉はきっと、晃人がこんなにできないとは思っていない。もし成績がバレたとしても、修哉は絶対、馬鹿になんてしたりしない。なのに……なのに、被害妄想を抑えられない。一度芽吹いた疑念の種は、あっという間に醜悪な荊に生長して心を埋めつくしてしまう。こうなったのは誰かのせいのような気がしてならない。誰か……修哉、の。  すごい……大変だね……そう言う裏で嘲笑っていたんじゃないのか。落ちぶれればいいと思っていたんじゃないのか。だから思わせぶりな態度で誘惑してきたんじゃないのか。快楽に溺れ、道を踏みはずした同級生……自分もそのようにさせられようとしていたんじゃないのか。修哉は違う、自分たちだけは違う……そんな例外なんて存在しないんじゃないのか。  春になったら変わるのか。合格したら変わるのか。  未来がまるで想像できない。

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