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鷹取晃人03
「大丈夫なんかじゃないくせに!」
強引に押し入り、腕をつかんだ。「痛っ」と修哉が顔をしかめる。スウェットの裾をまくりあげると、腕に真新しい傷が見えた。
「晃人……」
修哉の震えが大きくなる。
「晃人、晃人……晃人……っ!」
ごめん、本当にごめん、と繰り返しながら修哉は抱きついてきた。俺の方こそごめん、と、晃人も何度も繰り返した。こんなにごめんと言いながら、セックスしたことなんて今までなかった。ごめん、俺の方こそ、本当に、ごめん。すぐに駆けつけてあげられなくてごめん。修哉が一番つらいときに、助けになってやれなくてごめん。偉そうなこと言って。何もできなくてごめん。裏切ってごめん。信じきることができなくてごめん。こんなどうしようもない、自分で、ごめん……
蜘蛛の糸にしがみついているような。しがみつきながら、ずるずると落ちていっているような。
ぐずぐずになった後ろが、せつなかった。
いつもだったら受け入れてくれてる、と思って高揚したであろうそれが、今はただただ、痛みに耐えかねて泣き濡れているようで、せつなかった。濡れすぎて逆に、何も感じることができない。ずるずると滑り落ちていく。どれだけ奥まで探っても、底が見えない。三回出して、ようやく落ち着いた。
抱きしめていると、鼓動が聞こえた。こうやって耳を近づけて、心の声も聞こえたらいいのに。
「晃人……ごめん、今日、大事な日だったのに」
「いや、全然大丈夫……つーか、直前でじたばたしてもあんま変わらないっていうか……」
「そう……」
「修哉、は……修哉もセンター……」
「うん、受けるつもりだったけど……まあ、こればっかりはしようがないよ。今までかぶらなかったのが奇跡なくらい……よりによって何でこんなときにって思うけど……でも、しようがない……」
言い聞かせるような口調に胸を締めつけられる。そんなに簡単に諦めるなと言いたかった。諦めさせたのは自分のくせに。
「でも、まだ受験は始まったばっかだし……」
「国公立じゃないと駄目だって言われてるんだ。私学はとても……うちにそんな余裕ない」
「そんな、でも、奨学金とか……」
「そもそも受験にもあんまりいい顔されてなかったし。学なんてつけてもそれを活かせられる機会なんてないだろう、って。浪人……しても、次も同じようなことになるかもしれないし……それで一年費やすのはリスクがありすぎるし……」
「そんな……」
馬鹿みたいに、そんな、を繰り返すしかできなかった。そんな……何だ。悲しいこと言うなよ? 諦めるなよ? 俺を……惨めな気持ちにさせるなよ?
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