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鷹取晃人04
T大は不合格。あまりにも当然すぎてショックですらない。ショックですらない、ということが、ショックだった。こんなに頑張ったのに何故と悔しがることができたなら、それを次のエネルギーにすることができた。あるいは結果は出なくてもここまで頑張ったんだから、と、それまでの努力を糧にすることができた。でも今の自分は、正真正銘、からっぽだった。
かろうじて、国立のY大には受かっていた。案の定渋い顔をされたが、政財界に出身者が多いということで、進学しても損にはならないだろうという判断になった。損……損にはならない……そんな理由で自分なんかは進学する。進学、できてしまう。でも、修哉は……
母に電話で報告する。当たり前に母は、「まああ、そう、すごいわね、よかったわね」と喜んでくれる。けれど母は、何が『すごい』のか、そして『すごくない』のかも分かっちゃいない。その温度差がせつなかった。
修哉にも言うべきかどうか悩んでいたとき丁度、修哉の方から、「どうだった?」と連絡があった。そう訊いてきてくれたことで、どれだけ楽になれたか。「うん、Y大の経営」
「すごい……よかったね。うん、本当によかった」
母と同じことを言われているはずなのに、修哉から聞くとそれはすっと胸に入ってきた。電話越しに頭を撫でられているような、くすぐったい感覚。
「何か、すごい、晃人に合ってる」
「合ってる?」
「うん、晃人は『Y大生』って感じがしてた」
「何だよ、適当なこと言うなよ」
「適当じゃないよ。うん……本当に、よかったなあ、って。いい選択だったと思う」
いい選択。
その言葉が、ずしん、と来た。いい選択を、本当に自分はしたんだろうか。そもそもこれは『選んだ』ことだっただろうか。ただ、流されてきただけじゃないのか。
「修哉は……」
「うん、就職することにした」
「そう……」
どこに、とは訊くことができなかった。オメガが就ける職は限られているから。
「でもそうかあ……晃人はいよいよ大学生か……髪、染めたりすんの?」
「染めねーよ。そんな急に分かりやすい羽の伸ばし方しない」
「Y大ってことはさ、実家から?」
「そう、だから残念ながら、大学に入った途端、自由を満喫……なんてことにはならなさそう。よくも悪くも、今までとあまり変わりなさそう、って言うか」
今までとあまり変わりなさそう……何気なく言ったようでそれは、修哉に向けて言った言葉だった。これからも今までと変わりなくいられるよな? いてくれるよな? 俺たち……
「修哉も……」
「うん、俺もバスと電車で一時間くらいのところだから」
「そう……じゃあこれからも、修哉ん家、行ってもいい?」
「いいけど。晃人、講義とかサークルとか……きっと忙しくなっちゃうよ。楽しいことだっていっぱいあるだろうし」
「俺はそんなことない。修哉の方が……。土日休み?」
「うん」
「そっか。いい職場だといいな。あんまり頑張り……」
「すぎない。細く長く続けていくのが目標だから」
晃人もあまり頑張りすぎないで、と言われる。頑張りすぎないで……。何でもない言葉を勝手に、「自分のところに来る余力を残してほしい」と言われているように変換してしまう。うん、頑張りすぎない。一番大切なのは、修哉と一緒にいる時間だから。
大丈夫だ、と思った。
今まで何となくぎくしゃくしていたのは、受験が控えていたせいだ。終わってしまえば……不本意な進路でも一歩進んでしまえば……ほら、何てことないじゃないか。
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