79 / 133

鷹取晃人04

 T大は不合格。あまりにも当然すぎてショックですらない。ショックですらない、ということが、ショックだった。こんなに頑張ったのに何故と悔しがることができたなら、それを次のエネルギーにすることができた。あるいは結果は出なくてもここまで頑張ったんだから、と、それまでの努力を糧にすることができた。でも今の自分は、正真正銘、からっぽだった。  かろうじて、国立のY大には受かっていた。案の定渋い顔をされたが、政財界に出身者が多いということで、進学しても損にはならないだろうという判断になった。損……損にはならない……そんな理由で自分なんかは進学する。進学、できてしまう。でも、修哉は……  母に電話で報告する。当たり前に母は、「まああ、そう、すごいわね、よかったわね」と喜んでくれる。けれど母は、何が『すごい』のか、そして『すごくない』のかも分かっちゃいない。その温度差がせつなかった。  修哉にも言うべきかどうか悩んでいたとき丁度、修哉の方から、「どうだった?」と連絡があった。そう訊いてきてくれたことで、どれだけ楽になれたか。「うん、Y大の経営」 「すごい……よかったね。うん、本当によかった」  母と同じことを言われているはずなのに、修哉から聞くとそれはすっと胸に入ってきた。電話越しに頭を撫でられているような、くすぐったい感覚。 「何か、すごい、晃人に合ってる」 「合ってる?」 「うん、晃人は『Y大生』って感じがしてた」 「何だよ、適当なこと言うなよ」 「適当じゃないよ。うん……本当に、よかったなあ、って。いい選択だったと思う」  いい選択。  その言葉が、ずしん、と来た。いい選択を、本当に自分はしたんだろうか。そもそもこれは『選んだ』ことだっただろうか。ただ、流されてきただけじゃないのか。 「修哉は……」 「うん、就職することにした」 「そう……」  どこに、とは訊くことができなかった。オメガが就ける職は限られているから。 「でもそうかあ……晃人はいよいよ大学生か……髪、染めたりすんの?」 「染めねーよ。そんな急に分かりやすい羽の伸ばし方しない」 「Y大ってことはさ、実家から?」 「そう、だから残念ながら、大学に入った途端、自由を満喫……なんてことにはならなさそう。よくも悪くも、今までとあまり変わりなさそう、って言うか」  今までとあまり変わりなさそう……何気なく言ったようでそれは、修哉に向けて言った言葉だった。これからも今までと変わりなくいられるよな? いてくれるよな? 俺たち…… 「修哉も……」 「うん、俺もバスと電車で一時間くらいのところだから」 「そう……じゃあこれからも、修哉ん家、行ってもいい?」 「いいけど。晃人、講義とかサークルとか……きっと忙しくなっちゃうよ。楽しいことだっていっぱいあるだろうし」 「俺はそんなことない。修哉の方が……。土日休み?」 「うん」 「そっか。いい職場だといいな。あんまり頑張り……」 「すぎない。細く長く続けていくのが目標だから」  晃人もあまり頑張りすぎないで、と言われる。頑張りすぎないで……。何でもない言葉を勝手に、「自分のところに来る余力を残してほしい」と言われているように変換してしまう。うん、頑張りすぎない。一番大切なのは、修哉と一緒にいる時間だから。  大丈夫だ、と思った。  今まで何となくぎくしゃくしていたのは、受験が控えていたせいだ。終わってしまえば……不本意な進路でも一歩進んでしまえば……ほら、何てことないじゃないか。

ともだちにシェアしよう!