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鷹取晃人04

 ぞっとした。  たった二ヶ月、会わなかっただけでこんなに変わってしまうものなのか。  修哉の部屋の様子は、以前と何も変わりなかった。相変わらず掃除とか洗濯とかこまごましたことは苦手みたいで、積み上げられた雑誌は雪崩を起こしていたし、排水溝にはゴミが溜まっていたし、パーカーには毛玉がついていた。それを「しようがないなあ」なんて一緒に片付けながら、必死に、昔の再現をしようとしていた。変わっていないところを見つけて、ほらやっぱり変わっていないじゃないか、と、誰に向かってか分からないが訴えている。でも、誰に否定されているわけでもないのに、何度確かめても、安心することができない。地面が、つるつる、滑る。どれだけ踏ん張っても、強制的に連れ去られていってしまう。ベルトコンベアの上。どうやっても引き戻すことのできない、時間、という、ベルトコンベアの上。 「……と、晃人」  呼びかけられていたことに、気づいていなかった。慌てて顔を上げる。 「な、何」 「有り難う……それ、毛玉」 「あ……うん」  一度やり始めると、完璧にきれいにしてやろうとついムキになってしまった。 「すごい、新品みたい。もうぼろぼろだから捨てようと思っていたのに」 「手入れすりゃまだちゃんと使えるんだよ」 「そうだね……あ、じゃあこれも全部、やってもらおうかな」 「おい」  カラーボックスから引っ張り出された洋服が山積みになる。「うわっ、きったね」「ちゃんと洗ってるよ」「洗ってるように見えない! しわしわじゃん……。何でそのまま突っ込むんだよ。ちゃんと畳めばこんな風にならないのに」「だってめんどくさいからさぁ」「今、余計にめんどくさいことになってるだろ」  そんな軽口を叩きながら……ぐしゃぐしゃになった洗濯物のように、本当にしなければならないことを後回しにしているような感覚は、たぶん、ふたりともにあったと思う。  修哉がじっと、洗濯物を畳む晃人の指先を見つめているのが分かった。今、ここで何か言われちゃいけない、という予感がした。今、修哉の口をひらかせたら……  目が合う。修哉が少し、首を傾げた。それを勝手に、キスを受け入れる体勢だと解釈してくちづけた。ぴちゃ、ぴちゃ、と濡れた音。舌先と舌先とをくっつけ合う。久しぶりすぎて、忘れてしまった。キスってこんなんだったっけ。ぴちゃぴちゃ……まるで初めてキスしたときみたいな……飲み込むような、溺れるようなキスじゃなく、水たまりの水を跳ねさせて遊ぶみたいなキス。「ふっ……」と耐えきれず声が漏れる。自分の鼻息はきっと修哉にかかってしまっている。でも修哉から漏れるものは、不思議と何もなかった。一旦、距離を置く。一度キスをしたら、近づいたら、それ以上離れることなんて滅多になかった。目を閉じて近づいたら、再び目をあけて、冷静に相手の顔を見ることなんて。 「晃人」 「何」 「晃人」  修哉の指がそっと、晃人の唇にふれた。こぼれそうになっている雫をすくい取るように。それ以上近づいてはいけないと押し戻すように…… 「俺……妊娠してる」  ああ……  そのとき思ったのは何故か、  ああ……  ああ……そういうことか。  何かがストン、と、腑に落ちた。やるべきことは山ほど……立ちふさがっているのに、何故か心は、これ以上ないくらいに落ち着いていた。  まったく想像していなかった。  でも、いつか修哉にこういった目で見つめられる日が来るんじゃないか……とは、何となくだけど、予感していた。覚悟を、決意を、迫る目。 「妊娠……」  自然と下腹部に目をやってしまう。もちろんまだ、外から見て分かるような変化はない。 「って、何ヶ月……」 「四ヶ月」

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