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鷹取晃人04

 守ると誓った。でも現実は、熱情だけで押し通せるほど甘くはなかった。  当然のように義父母は、修哉に堕ろせと迫った。でも幸か不幸か、義父母が事の次第を知ったときにはもう、堕胎できる週数を過ぎていた。一生分の罵詈雑言を、そのとき浴びた。「ほらやっぱり」「だから私は初めから反対だった」「いつか問題を起こすと思っていた」……義母の声は不思議と、言い始めは鮮明に聞こえるのに語尾になるとかき消えて、最終的に何を言われたのか記憶に残らないことの方が多かった。  修哉に対してはもちろん、晃人に対しても義父母は、コミュニケーションを取るのを放棄したようだった。それまで表面上はかろうじてつながっていた糸が、完全に断ち切れた。「これからのことは全部彼に任せなさい」と、義母は弁護士を連れてきた。修哉のことを任せる、というより、本当のところは『鷹取家と晃人との関係』を『義母が』、任せてしまいたかったんだろう。 「つらかったね」と開口一番彼は言った。しかしこのあと、こう続けた。「君はオメガに騙されたんだろう」弁護士は、アルファだった。「君みたいなケースをたくさん見てきた。君は優しそうだから、つけこまれたんだ。でも大丈夫、今まで解決できなかったことはないから。大体オメガの浅知恵なんか、アルファに通用するはずないんだ。まったくこれだからオメガは……」  まったくこれだからアルファは……  弁護士と、高校時代の同級生の顔がだぶる。こういった感覚にふれるのは久々だった。こういったクソみたいな人間にふれるのは。 「オメガ、じゃないです」 「え?」 「早坂修哉、です。彼は。俺は騙されたわけでもつけこまれたわけでもないです。俺が傷つけたんです。俺が、彼を、傷つけたんです」  弁護士は、どうしたものかという風に肩をすくめた。  悔しかった。  自分が何を訴えてもそれは正しく届かない。そのことが猛烈に、悔しかった。

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