102 / 133

早坂修哉01

 妊娠しているのだと分かったとき、妊娠、という単語と、自分の身体に起こっていることとが、うまく結びつきませんでした。  妊娠した、ということは、親になる、ということです。それなのにその瞬間、ふだんはそんなこと意識することもないのに、私はまだ子どもじゃないか、と、震えました。自分で何も決定することができない。  避妊薬は飲んでいました。でも万能ではないとも聞きますし、あのとき私は相当に混乱していたので、もしかしたら誤った薬を飲んでいたのかもしれません。  誰にも相談することができないまま、ひと月経ち、ふた月経ちました。  ひとりでは育てることはできない。これは動かしようのない事実で、だったらやることは決まっているはずなのに、どうしてもそちらへ進むことができないのです。  せっかく授かった命を守りたいから?  そんな崇高な考えはありませんでした。  君に対して残酷なことを述べているのは分かっています。でもあえて、言わせてください。  うむにせようまないにせよ、私は、何か、決定づけることが、怖かった。そのとき初めて、責任、という言葉を噛みしめました。どちらを選んでも正しいと胸を張って言えないことを、飲み込むこと。それこそが責任を取る、ということなのではないかと思いました。  でもここでも私はまた、自分の弱さに負けてしまうのです。  喜んでくれる、なんてことは万にひとつもないことは分かっていました。だったらもうこっぴどくやってほしかった。そんなの困るとか、本気かよとか、育てられるわけないじゃんとか、ばっさり切り捨ててほしかった。そう、私は、自分で決められないことを、晃人に委ねようとしてしまった。  何を、どういう順序で、どう話したのか、覚えていません。  沈黙の中、置き時計がカチ、カチ、カチと鳴る音がまるで、赤ん坊の鼓動のように感じられたことだけは覚えています。

ともだちにシェアしよう!