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早坂修哉01
妊娠しているのだと分かったとき、妊娠、という単語と、自分の身体に起こっていることとが、うまく結びつきませんでした。
妊娠した、ということは、親になる、ということです。それなのにその瞬間、ふだんはそんなこと意識することもないのに、私はまだ子どもじゃないか、と、震えました。自分で何も決定することができない。
避妊薬は飲んでいました。でも万能ではないとも聞きますし、あのとき私は相当に混乱していたので、もしかしたら誤った薬を飲んでいたのかもしれません。
誰にも相談することができないまま、ひと月経ち、ふた月経ちました。
ひとりでは育てることはできない。これは動かしようのない事実で、だったらやることは決まっているはずなのに、どうしてもそちらへ進むことができないのです。
せっかく授かった命を守りたいから?
そんな崇高な考えはありませんでした。
君に対して残酷なことを述べているのは分かっています。でもあえて、言わせてください。
うむにせようまないにせよ、私は、何か、決定づけることが、怖かった。そのとき初めて、責任、という言葉を噛みしめました。どちらを選んでも正しいと胸を張って言えないことを、飲み込むこと。それこそが責任を取る、ということなのではないかと思いました。
でもここでも私はまた、自分の弱さに負けてしまうのです。
喜んでくれる、なんてことは万にひとつもないことは分かっていました。だったらもうこっぴどくやってほしかった。そんなの困るとか、本気かよとか、育てられるわけないじゃんとか、ばっさり切り捨ててほしかった。そう、私は、自分で決められないことを、晃人に委ねようとしてしまった。
何を、どういう順序で、どう話したのか、覚えていません。
沈黙の中、置き時計がカチ、カチ、カチと鳴る音がまるで、赤ん坊の鼓動のように感じられたことだけは覚えています。
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