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早坂修哉01
晃人に打ち明けてしまったことで、元々こんがらがっていた糸がさらにこんがらがってしまったようでした。言わなければよかった、と、何度思ったか分かりません。自分さえ黙っていれば、苦しい思いをするのは自分だけ……。自分と、小さな命だけですんだのに、晃人にも同じ苦しみを背負わせることになってしまった。私はどうして、いつもいつも肝心なところで選択肢を誤ってしまうのか。陰ながら晃人を支えたいとか、晃人の力になりたいとか、偉そうなことを言って、でも私が一番、晃人の足を引っ張っている。私が何もしなければ晃人は、ぎりぎりのところで何とか踏ん張っていられたのに、私が最後の最後で、とん、と、その背中を突いてしまった。それでも晃人は、そんな私を責めないのです。それが、たまらなく、苦しかった。
中絶同意書を貰った、帰りでした。
紙切れ一枚貰っただけなのに、もう、赤ん坊の鼓動が弱くなっているような気がしました。自分と、お腹の子。どっちが息絶えるのが早いだろうなんて思っていたとき、アパートのドアの前で佇んでいる晃人に気づきました。
どうして……
何で、このタイミングで……
晃人、どうして君ってひとは、どうしてそんなに……俺を救おうとするの。
たとえばお腹すいたなあと思ったときに相手も同じようにすいているとか、会いたいなと思ったときに丁度連絡が来たりとか、そういった相性、的なものは、決してよい方だったとは思えません。噛み合わないことは多々ありましたし、何かズレてるなと思いながら、それでも修正せずにずるずる来たこともありました。でもこのとき、この瞬間だけは、違いました。望んだものが望んだタイミングで与えられた、唯一の瞬間でした。
うんでほしい、と言われたとき、それはほとんど、愛している、と同じ響きでした。
散々迷って、でもどうして君をうもうと思ったのか。その問いには、こう答えることができます。愛されていると実感したから。
でも、実感するなり、急に怖くなりました。私は本当に、晃人に見合う存在なのかと。それにふと、思いとどまってしまったのです。
お腹の子は本当に、晃人の子、なんだろうか……と。
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