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早坂修哉01

 都合のいいようにばかり考えていましたけれど、妊娠するタイミングで私は、晃人以外のアルファとも性交渉していた。愛などなく、ただ欲求を解消するためだけのセックスを、無意識のうちに記憶から消そうとしていましたが、あれだって、子どもを作る行為には違いなかった。避妊薬は……飲んだと思います。でも思い返そうとすればするほど、記憶は怪しくなっていきます。じわじわと怖くなったのは、とうとう隠しきれずに母親と妹に打ち明けた、その直後でした。どこか世の中を斜めに見るところのある妹が、「よかったじゃん、お兄ちゃん、玉の輿じゃん」と、からかい調子で言い、真正面から反論すべきか、適当にいなすべきかと揺れたとき、ふっ、と……そうだ、どうしてこの子が晃人の子だと証明することができるのだろう、と思ったのです。  そんな私をよそに妹は、「お兄ちゃんがオメガだって分かったときマジどうしようって思ったけど、オメガの中では勝ち組じゃない?」だの「つーか鷹取グループって、晃人兄ちゃんってすごいひとだったんだね」だの、敏感になった心を次々、突き刺すようなことを言うのです。「あれ? でもまだつがいになってないの? 順番逆……っていうか、遅くない? 早くつがいになってもらいなよ」  晃人はつがいにはなってくれないでしょう。いや、なれないでしょう。  というか、私との関係を続けること自体、晃人には何のメリットもないのです。晃人はもっとふさわしいひとと結ばれるべき。晃人は一切言いませんでしたが、晃人の立場の難しさは、言われなくても伝わってきました。  たぶん、口止めの意味もあったのでしょうが、晃人の家から多額の援助が提案されていました。でもそれには、うまれてくる子の遺伝子検査と性別検査が条件でした。  分かっていました。  どれだけ愛だの恋だの言ったところで、世間の評価はこうなのです。結局私は、子どもができたことを盾に御曹司をゆすっている低俗なオメガ、でしかない。  私は静かに、覚悟しました。  この子はひとりでうんで、育てると。  もう今後一切、晃人に近づかない。どれだけ気をつけたとしても、晃人の傍にいるだけで、私は晃人を追い込んでしまう。だったらもう、物理的に距離を置くしかありません。寂しくないと言えば嘘になります。でも、今まで貰った愛情だけで、これから十分、生きていけると思いました。生きていけるよな、と、君に語りかけていました。

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