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再び・鷹取光輝01
「た、か、と、り、くーん!」
「わっ」
後ろからタタタッ、と駆け寄って、突撃。
そんな漫画みたいなことを本当にする奴がいるとは思わなかった。ゼミ室へ向かおうとしていたときのことだ。
「すっげえ首、折れ曲がってた。駄目じゃーん、歩きスマホ」
「今、たまたま通知が来ただけ」
「そう? 何か、ヤバい動画でも流出したかってくらい負のオーラが背中から出てた。前向こう、前」
「……元気だな」
「えー、全然絶不調。目ぇ痒いし。一生分の鼻水出たんじゃないかって感じだし。なあ、一生に出る鼻水の量ってどのくらいなのかな? ああー、また出てきたー」
「おい、また……」
「いいのいいの。かめばかむだけ出てくるから。出してもいいんだ、って思わせたらこいつらどんどん出てくるから。あんまり鼻を甘やかしちゃいかんと思って。かまずにどれだけ耐えられるかゲーム、やってみたことない?」
小学生か。
ちなみにこのフランクさから勘違いされそうだけど、これは出会って二回目の会話だ。
大学にはいろんな奴がいると聞いてはいたけど、本当に新人類だった。壁があまりにもなさすぎて面食らう。
変だけど、悪い奴じゃなさそう……
けれど一回目のゼミのあと、彼と同じ高校だったという奴から、ああ見えて彼は実はアルファだということを聞いていた。ああ見えて。本当にアルファらしくないよなあ、と友人は笑っていたが、光輝は笑えなかった。
なーんだ。
そう、そういうこと。
人懐っこいと言えば聞こえはいいけど、相手が拒絶しないと確信しているからこその図々しさ。
できるはずだ、アルファなら。
「春にうまれたから春陽って名前なんだけどさー、春が一番天敵」
おそらく何十回となく繰り返してきたであろう自己紹介ネタなんだろう。
崩れることのない笑顔。その光が生み出した影が他人に落ちていることなんて、きっと想像すらしていない。自分が圧倒的に恵まれていることに無自覚で、だからこそ真剣に、『自分が笑っていれば相手も笑ってくれる』とか『情熱をこめて接すれば必ず通じる』とかいう理想論を信じているようなタイプ。あらためて、住む世界が違うんだ、と思う。関わらない方がいいんだと思う。でも、
「上を向いて~歩こう~鼻水こぼれないよ~に~」
くだらないギャグでもしつこく繰り返されると、圧に負けて笑ってしまうのと同じだった。鋼の意思で無視しようと決意しても、ずるい、無視しきれない。
しかしアルファでも花粉症になるんだな……って、なるか、そりゃ。
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