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再び・鷹取光輝01
「なあ、俺、鷹取のこと好きかもしんない」
「はあ?」
そしてこれが、出会って三回目の会話。
フィールドワークのグループが同じになってしまい、昼飯がてら、課題のまとめ方について打ち合わせしようとしていたときのことだった。食堂は大勢の学生で賑わっていたけど、この瞬間だけ静まり返り、皆が聞き耳を立てているように感じてしまったのは、自意識過剰だろうか。
「何なんだよ、好きかもしんない、って」
「あ、ごめん、卑怯だったな、逃げ道作るみたいな言い方して。ちゃんと言うわ。好きです」
……って、ちゃんと言われても困るんだけど。
「だから、なあ、俺のつがいになって」
好き……つがい……え……?
「鷹取、オメガだろ」
サッと血の気が引いた。
何でこいつ、知って……いつ……いつだ、いつバレた……?
聞き返す? とぼける? 無視する? どうリアクションするのが最善なのか。
なかったことにしたい。できないか。でも、普段はひとの話を聞かずに喋り出すような奴なのに、こんなときに限ってじっと光輝の返事を待っている。ご主人様の「よし」を待っている犬みたいに。無邪気な目をして。
つがい……? は……何言ってんの。ひとを勝手に……
オメガって決めつけんなよ。
……そう続けようとした。
今まで、オメガだということは隠してきた。知っているのは父と早坂、ふたりだけ。発情をコントロールし、何とか乗り切ってきた。三年になったら急に体調を崩すことが多くなって焦ったけれど、それまで真面目にやってきたのが幸いして、最終的には推薦で希望していた大学に入れた。このまま普通の人間として生きていく。その人生設計を、こんなところでぶち壊されるわけにはいかなかった。しかもこんな奴に……なのに……
「だって、感じちゃったんだもん、運命。鷹取も感じなかった? 初めて会ったときからさあ、なあ、絶対、何か感じただろ」
決めつけかよ。
「お前が何感じたか知らないけど。俺はまったく、お前に対して何とも思ってないから」
「えー……」
分かりやすく耳と尻尾が垂れ下がったのが見えた。
「あ、もしかしてもう、つがいになるって決めてる相手がいたりすんの?」
「だから……」
だから『つがい』とか大きな声で言うな。だから俺はオメガじゃない。だからお前俺のこと何も知らないだろ、だから何でどうしてこうなった、だから、だから……
言うべき言葉は他にいくらでもあったはずだった。だからどうして、よりにもよって、「それは……いないけど」なんて言ってしまったのか、自分でも分からなかった。言ったあと、やばい、と思い直し、だからって期待されても困るんだけど……と釘を刺そうとしたが、
「鷹取って、ほんといい奴だな」
またも先手を打たれた。
「いる、とか、適当なこと言っときゃいいのに」
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