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再び・鷹取光輝02

 対抗策はいろいろ考えていた。  体調が悪いとか、昨日あまり寝られなかったから寝させてくれとか、まだ終わってないレポートがあるから集中させてくれとか。  けれど新幹線の中で、春陽はいたって常識的だった。真隣にいるのに、いつもの暑苦しい感じは全然なかった。一方的にまくし立てられて耳をふさぎたくなるような感じも、逆に沈黙が多すぎて気づまりになるような感じもなかった。  コーヒーが飲みたいな、と思うタイミングで、廊下側に座っていた春陽が車内販売を呼び止めてくれ、トイレに行きたいな、と思うタイミングで、先に席を立ってくれた。  頬杖をつき、窓の向こうの景色を眺めていたけれど、いつしか窓ガラスに映る春陽を見ていた。一応耳に差していたイヤホン。でも音楽は流れていなかった。 「なあ」  不本意ながら、光輝の方から話しかけてしまっていた。 「んー?」 「お前さあ、何でこのゼミ選んだの」 「単位取りやすいって先輩から聞いたからー。それにさあ、講義室でじっとしてんじゃなくてさ、あっちこっち行ったりするの楽しそーって」 「あ……そ」 「何々どーした……って、あ、ごめーん、ここは鷹取が選んでたから、って言うべきだった? もー、お前のおねだり分かりずれーわ」 「断じて違う」  一度は外したイヤホンを、また耳に突っ込んだ。けれど春陽はおかまいなしに喋り続ける。 「あー、お腹空いたなあー……なあ、昼飯どうする? 何か買う? 着いてから食べる? 俺、東北行くの初めて。何が美味いのかなあ。ご当地グルメご当地グルメ……あっ、そうそう、母ちゃんと姉ちゃんからゆべし買って来いって言われてんの。食ったことある?」 「んー……まあ……」  でも結局、返事をしてしまっている。 「くるみがいいとか黒ごまがいいとか注文多くてさー。ネットでも注文できるだろ。これだから姉貴には知られたくなかったのに、お袋がべらべら喋るから……」 「……お姉さん、いるんだ」 「姉貴がふたり。鷹取は?」 「きょうだいは……いない」 「ひとりっこ? あー、ぽいぽい。何かそんな感じっぽい」  ……何だよそんな感じって。絶対ロクでもない感じだろ。  悔しかったので、お前もそんな感じだよな、と返してやった。

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